ヴァレン兄さん、ねじが余ってます 2

四葉 翠花

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04.見習いアルン

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 エアイールとの会話でややげっそりとしながら帰り着くと、館内で見習いのアルンと出会った。
 もとはミゼアス付き見習いで、将来は五花になるだろうと期待されている優秀な子である。しかし、アルンはだんだんとミゼアスに似ていくようで、ヴァレンは空恐ろしいものを感じていた。

「痴話喧嘩は無事、終了したようですね」

「痴話喧嘩って……別に、そんなのじゃないんだけど……」

 ぼそぼそとヴァレンは答えるが、どこに行っていたのかアルンに見抜かれていることに、頭を抱えたくなる。

「照れなくてもいいですよ。花同士で結ばれることだって、珍しいとはいってもたまにありますし。蜜月亭のご夫婦も、元は花同士だったそうですよね」

「いや、だからね……」

 アルンはどうも、ヴァレンとエアイールをくっつけたいようだ。
 いわゆる幼馴染のようなもので、友達だと言っているのだが、なかなかわかってもらえない。

「ああ、そうでした。タコが暑さでぐったりしていましたよ。水は取り替えておきましたけれど、やっぱりすぐにぬるくなってしまうみたいですね」

 突然、アルンは話を切り替える。いつもアルンはある程度ヴァレンを追い詰めると、唐突に話を変えてしまうのだ。
 きっとこの子は立派な白花になるだろうと、ヴァレンはしみじみと実感する。安心といえば安心だが、少し頭が痛い。

「そっか、暑いからなー」

 とりあえずアルン自身のことは置いておき、ヴァレンは話の内容に意識を向ける。
 タコとは、夕月花騒動のときにヴァレンが海岸で拾ってきたタコのことだ。ヴァレンの危機を数回救ってくれ、もはやヴァレンにとっては守り神という存在だった。

「じゃあ、様子を見に行くよ。それと、近いうちに夕月花の件で宴席を設けるから」

「え? もしかして、ミゼアス兄さんがいらっしゃるんですか?」

 アルンから大人びた仮面がはがれ、子供らしく顔を輝かせる。年齢相応の姿を見せるアルンに、ヴァレンは胸がちくりと痛んだ。

「いや、ミゼアス兄さんの旦那になったジェスさんの同級生。でも、最近ミゼアス兄さんと直接会っている人だから、様子くらいは聞けると思うよ」

「そう、ですか……。でも、ミゼアス兄さんのお話は聞けますよね。ミゼアス兄さんがお元気でしたら、それでいいです」

 沈みながらも、懸命に気持ちを立て直そうとするアルンの頭を、ヴァレンはそっと撫でた。
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