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130.ジャニス
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これから、ここの奥方ことジャニスとのお話だとミゼアスは言った。
奥方はアデルジェスのことを始末しようとしていたのではなかっただろうか。不安を覚えたアデルジェスはミゼアスに質問しようと口を開きかけるが、扉を叩く音がしたので黙った。
すると奥方の部屋に案内すると侍女がやってきた。アデルジェスはミゼアスに質問する機会を逃しながら、一緒についていく。
案内されたのは寝室だった。
「男性の方はご遠慮くださいませ」
侍女は、アデルジェスを制止する。当然のことだろう。
「奥には入りません。護衛として、部屋の入り口で立っていることをお許しください」
「……それだけでしたら」
強引に入室を認めさせようとするミゼアスに対し、侍女は仕方がないといった様子ではあったが頷いた。
アデルジェスは部屋の入り口で、じっと黙って立つ。
中には豪華な天蓋付きの寝台がたたずんでいる。ミゼアスが寝台に近づくと、中で何かが動いたようだった。
「ジャニス……久しぶり。僕のこと、わかる?」
ミゼアスが声をかける。
「……もしかして、ミゼアス?」
アデルジェスから寝台の様子はよくわからないが、声だけは聞こえる。若い女性の声だ。声に張りはなく、やつれているようだった。
「あなた、どうしてここに?」
「うん、色々あって。聞きたいことがあるんだ。きみ、兵士を島に送り込んで殺そうとしたでしょう?」
ミゼアスはいきなりそう切り出す。
「……殺そうとしたわけじゃないわ。追い払いたかっただけよ」
しかし寝台の中から聞こえる声はそれを否定した。疲れきったような声だった。
「そう。じゃあそれは、きみが先妻の息子を殺そうとして邪魔されたから?」
尚もミゼアスは続ける。
「あの子だって、別に殺そうとしたわけじゃないわよ。ただ、遠くに追い払いたかっただけ……」
「どうして?」
「だって……あの人、あの子と浮気しているんじゃないかって疑うのよ……」
声に悲痛な響きが混ざる。寝台の中の影も動いたようだった。
「あの人って、グリンモルド伯爵?」
「そうよ……あの人、常に私の浮気を疑うの……そんなこと、していないのに……」
鼻をすするような音がかすかに聞こえてきた。
奥方はアデルジェスのことを始末しようとしていたのではなかっただろうか。不安を覚えたアデルジェスはミゼアスに質問しようと口を開きかけるが、扉を叩く音がしたので黙った。
すると奥方の部屋に案内すると侍女がやってきた。アデルジェスはミゼアスに質問する機会を逃しながら、一緒についていく。
案内されたのは寝室だった。
「男性の方はご遠慮くださいませ」
侍女は、アデルジェスを制止する。当然のことだろう。
「奥には入りません。護衛として、部屋の入り口で立っていることをお許しください」
「……それだけでしたら」
強引に入室を認めさせようとするミゼアスに対し、侍女は仕方がないといった様子ではあったが頷いた。
アデルジェスは部屋の入り口で、じっと黙って立つ。
中には豪華な天蓋付きの寝台がたたずんでいる。ミゼアスが寝台に近づくと、中で何かが動いたようだった。
「ジャニス……久しぶり。僕のこと、わかる?」
ミゼアスが声をかける。
「……もしかして、ミゼアス?」
アデルジェスから寝台の様子はよくわからないが、声だけは聞こえる。若い女性の声だ。声に張りはなく、やつれているようだった。
「あなた、どうしてここに?」
「うん、色々あって。聞きたいことがあるんだ。きみ、兵士を島に送り込んで殺そうとしたでしょう?」
ミゼアスはいきなりそう切り出す。
「……殺そうとしたわけじゃないわ。追い払いたかっただけよ」
しかし寝台の中から聞こえる声はそれを否定した。疲れきったような声だった。
「そう。じゃあそれは、きみが先妻の息子を殺そうとして邪魔されたから?」
尚もミゼアスは続ける。
「あの子だって、別に殺そうとしたわけじゃないわよ。ただ、遠くに追い払いたかっただけ……」
「どうして?」
「だって……あの人、あの子と浮気しているんじゃないかって疑うのよ……」
声に悲痛な響きが混ざる。寝台の中の影も動いたようだった。
「あの人って、グリンモルド伯爵?」
「そうよ……あの人、常に私の浮気を疑うの……そんなこと、していないのに……」
鼻をすするような音がかすかに聞こえてきた。
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