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128.摘まれた花
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「それが……アデルジェス君に危害を加えようとしたという話は聞きましたが、何故そのようなことになったのかが……私も驚きました」
「奥方様の妹君は、かなり錯乱なさっていました。どうやら愛しい相手に裏切られ、心を病んでしまったようで……おいたわしいことです。愛しい相手とアデルジェス様が重なってしまったのでしょう。本来なら罰せられるべきなのですが、その哀しいお心を思うと……どこかで静養でもさせてあげたいと思うのです」
内容がどうも違うようだが、アデルジェスは石像のようにじっと動かず、黙っている。下手に口を出してはいけない。
「おお、なんとお優しい。わかりました。妻の妹は、私にとっては義理の妹でもあります。私が引き取り、領内で静養させましょう」
「そうしてくださいますと、私どもも安心いたします。それにしても……男性の裏切りとは本当にひどいものですね」
ミゼアスは憂いを含んだ表情で、軽く息を吐く。
「花を摘み取って我が物にしておきながら、水を与えることもなく枯れさせる。自分一人だけのために咲かせ、他人の目には触れさせないようにしようと封じ込めた結果、光も水も断たれた花は朽ちるだけ」
まるで歌うようにミゼアスの言葉が紡がれる。
「伯爵でしたら、いかがですか? 朽ちることを知りながら、それでも封じ込めておきたいとお思いですか?」
「美しい花が朽ちるのは悲しいことですな。ですが、自らの手の中でのみ咲いてほしいという気持ちはわかりますよ」
穏やかな口調でグリンモルド伯爵は答える。
「では、その花が枯れかけているとして、それでもやはり自らの手に封じ込めたいとお思いですか? 哀れに思った他人がほんの少し、水を差すだけでも許せませんか?」
「そうですな……やはり、他人が差した水によって花開くというのなら、許せないかもしれませんね。それならばいっそ、自らの手の中で朽ちてしまったほうがよいと思うかもしれません」
グリンモルド伯爵は軽く眉根を寄せる。
「例えばその花が伯爵しか見ておらず、伯爵の手によって救えるのだとしてもですか? それでも封じ込めて朽ちさせたいとお思いですか?」
ミゼアスは穏やかにゆったりと問いかける。
するとグリンモルド伯爵は、わずかにミゼアスから視線をそらしたようだった。
「奥方様の妹君は、かなり錯乱なさっていました。どうやら愛しい相手に裏切られ、心を病んでしまったようで……おいたわしいことです。愛しい相手とアデルジェス様が重なってしまったのでしょう。本来なら罰せられるべきなのですが、その哀しいお心を思うと……どこかで静養でもさせてあげたいと思うのです」
内容がどうも違うようだが、アデルジェスは石像のようにじっと動かず、黙っている。下手に口を出してはいけない。
「おお、なんとお優しい。わかりました。妻の妹は、私にとっては義理の妹でもあります。私が引き取り、領内で静養させましょう」
「そうしてくださいますと、私どもも安心いたします。それにしても……男性の裏切りとは本当にひどいものですね」
ミゼアスは憂いを含んだ表情で、軽く息を吐く。
「花を摘み取って我が物にしておきながら、水を与えることもなく枯れさせる。自分一人だけのために咲かせ、他人の目には触れさせないようにしようと封じ込めた結果、光も水も断たれた花は朽ちるだけ」
まるで歌うようにミゼアスの言葉が紡がれる。
「伯爵でしたら、いかがですか? 朽ちることを知りながら、それでも封じ込めておきたいとお思いですか?」
「美しい花が朽ちるのは悲しいことですな。ですが、自らの手の中でのみ咲いてほしいという気持ちはわかりますよ」
穏やかな口調でグリンモルド伯爵は答える。
「では、その花が枯れかけているとして、それでもやはり自らの手に封じ込めたいとお思いですか? 哀れに思った他人がほんの少し、水を差すだけでも許せませんか?」
「そうですな……やはり、他人が差した水によって花開くというのなら、許せないかもしれませんね。それならばいっそ、自らの手の中で朽ちてしまったほうがよいと思うかもしれません」
グリンモルド伯爵は軽く眉根を寄せる。
「例えばその花が伯爵しか見ておらず、伯爵の手によって救えるのだとしてもですか? それでも封じ込めて朽ちさせたいとお思いですか?」
ミゼアスは穏やかにゆったりと問いかける。
するとグリンモルド伯爵は、わずかにミゼアスから視線をそらしたようだった。
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