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119.何もかも

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「……ミゼアスの稼ぎって、どれくらいだったの?」

 聞くのが恐ろしいような気もするが、聞いてみたい。アデルジェスはおそるおそる問いかけてみる。

「え? そのときによって違うけれど……大体……」

 声をひそめてミゼアスは金額を囁く。アデルジェスの目玉が飛び出そうだった。アデルジェスの給料だと十年分くらいだろうか。

「……それって、年収?」

「ううん、月収。花代としてもらっているのはこの倍だけれど、店側と取り分が半々だから。借金が残っていればここから払って、飲食代や衣類その他の費用もここから払う。僕は毎月結構残っていたから、その分は貯蓄してあるよ」

「……はあ……」

 これだけ稼いでいれば、確かに借金などすぐ返せるだろう。店が離したがらないのも当然だ。

「きっとすぐに離してくれないと思ったから、今までの貯蓄を全部差し出すんで解放してくれ、って言うつもりだったんだ。でも、領主様があっさり解放してくれてびっくりした」

 ミゼアスの言葉に、アデルジェスはさらに驚く。
 稼いでいる金額にも驚いたが、今までの貯蓄といえばおそらく莫大な金額になっているだろう。それをすべて差し出してまで、アデルジェスのところに来てくれようとしたのだ。
 本当に何もかも捨ててアデルジェスのところに来てくれるつもりだったのだ。この思いにどう応えればいいのかわからない。アデルジェスの胸は苦しいほど熱かった。

「大きな金額は島に行かないとだめだけれど、小額だったら国内の大きな都市で引き出せるって。生活費くらいはどうにかなるよ」

「いや……俺に働かせて。ミゼアスから比べれば雀の涙だろうけれど……生活費くらいは俺がどうにかしたい」

 アデルジェスがそう言うと、ミゼアスは笑ってアデルジェスの首に腕をまわした。

「もう……きみは真面目だねぇ。僕に稼がせて遊ぼうとか、僕の貯蓄を使って遊び暮らそうなんて思わないの?」

「思わないよ。……正直、金額が大きすぎてよくわからないし……。ミゼアスが自分のお金を使うのは自由だけれど、俺が使っちゃいけないでしょう」

「ふふ……ちょっとお堅いけれど、そういうところも好きだよ」

 悪戯っぽく囁くと、アデルジェスの頬に軽く口づける。

「でもね、きみはこれから兵士の仕事辞めるわけだし。しばらくは無職になると思うよ。その間くらいは僕に任せてね」
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