112 / 138
112.別れの挨拶
しおりを挟む
「まあ、前置きはそれくらいにして。ミゼアス兄さんが島を出ることになったと、島中その噂で持ちきりですよ。この館内なんて、もう大混乱です。ミゼアス兄さん一人で売上の半分近く稼いでいたし、娼館主なんて泣きそうでしたよ」
楽しげにヴァレンが口を開く。
「この子たちは、ミゼアス兄さんが去った後は俺付きになることになりました。さ、ご挨拶して」
ヴァレンがそう言うと、見習いの三人が進み出る。
「ミゼアス兄さんと、どうかお幸せに……。いつか、ミゼアス兄さんと一緒にまたいらしてください」
瞳を潤ませながらも、懸命に涙をこらえるアルン。
「アデルジェス師匠のお話、とてもためになりました。僕、頑張ります。またいつか、この島にいらしてください」
よほどぎっくり腰にならない重い物の持ち方に感銘を受けたらしいブラム。
「……僕が店に出るようになったら、精一杯おもてなしします。どうか遊びにいらしてください……」
もじもじとしながらコリン。
三人がアデルジェスに挨拶を終えると、ヴァレンがよくできましたというように手を叩いた。
「ほら、ジェスさん。ミゼアス兄さんをさらっていく、いわば敵に対してこの態度。健気だと思いません? 偉いでしょう?」
「う……うん……」
気圧されながらアデルジェスは頷く。
しかしヴァレンの言葉は多少ふざけてはいるものの、確かにそのとおりではある。
以前アルンと話したとき、アルンがどれほどミゼアスを慕っているのか感じられた。その慕う相手をアデルジェスに取られるというのに、この態度は子供とは思えないほど立派だ。
「この子たちのためにも、ミゼアス兄さんを幸せにしてあげてくださいね。そして、そのうち落ち着いたらミゼアス兄さんと一緒に、遊びにいらしてください。俺はどうなっているかわかりませんけれど、この子たちはまだ当分いますから」
穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、ヴァレンは跪いて頭を垂れた。見習い三人もそれにならう。
「ミゼアス兄さんのこと、よろしくお願い致します。またのお越しをお待ちしております」
「お待ちしております」
朗々たる声でヴァレンが言うと、見習い三人が唱和する。
それはとても洗練された姿だった。ここが高貴な貴族たちの遊び場であることを今更ながらに思い出す。
「……俺にできる限りのことをするよ。また、ミゼアスと一緒に来るから……」
こういうとき、何と答えるべきなのかアデルジェスにはわからない。
ただ自分の思いを述べることしかできなかったが、この子たちのためにもしっかりしなくてはならないと決意を新たにした。
楽しげにヴァレンが口を開く。
「この子たちは、ミゼアス兄さんが去った後は俺付きになることになりました。さ、ご挨拶して」
ヴァレンがそう言うと、見習いの三人が進み出る。
「ミゼアス兄さんと、どうかお幸せに……。いつか、ミゼアス兄さんと一緒にまたいらしてください」
瞳を潤ませながらも、懸命に涙をこらえるアルン。
「アデルジェス師匠のお話、とてもためになりました。僕、頑張ります。またいつか、この島にいらしてください」
よほどぎっくり腰にならない重い物の持ち方に感銘を受けたらしいブラム。
「……僕が店に出るようになったら、精一杯おもてなしします。どうか遊びにいらしてください……」
もじもじとしながらコリン。
三人がアデルジェスに挨拶を終えると、ヴァレンがよくできましたというように手を叩いた。
「ほら、ジェスさん。ミゼアス兄さんをさらっていく、いわば敵に対してこの態度。健気だと思いません? 偉いでしょう?」
「う……うん……」
気圧されながらアデルジェスは頷く。
しかしヴァレンの言葉は多少ふざけてはいるものの、確かにそのとおりではある。
以前アルンと話したとき、アルンがどれほどミゼアスを慕っているのか感じられた。その慕う相手をアデルジェスに取られるというのに、この態度は子供とは思えないほど立派だ。
「この子たちのためにも、ミゼアス兄さんを幸せにしてあげてくださいね。そして、そのうち落ち着いたらミゼアス兄さんと一緒に、遊びにいらしてください。俺はどうなっているかわかりませんけれど、この子たちはまだ当分いますから」
穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、ヴァレンは跪いて頭を垂れた。見習い三人もそれにならう。
「ミゼアス兄さんのこと、よろしくお願い致します。またのお越しをお待ちしております」
「お待ちしております」
朗々たる声でヴァレンが言うと、見習い三人が唱和する。
それはとても洗練された姿だった。ここが高貴な貴族たちの遊び場であることを今更ながらに思い出す。
「……俺にできる限りのことをするよ。また、ミゼアスと一緒に来るから……」
こういうとき、何と答えるべきなのかアデルジェスにはわからない。
ただ自分の思いを述べることしかできなかったが、この子たちのためにもしっかりしなくてはならないと決意を新たにした。
3
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。
そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる