92 / 138
92.本当に辛いのは
しおりを挟む
アデルジェスはネリーに自分の抱えている思いを話した。
真剣に話を聞いてくれるネリーに、アデルジェスはついつい自分の悩みをさらけ出していった。
「……要するに、ジェスがミゼアスにつり合わなくて捨てられるんじゃないかって悩んでいるのかしら?」
「うん……そもそも、あんな高嶺の花がどうして俺なんか好きになったんだろうって。勘違いじゃないのかなっていう気もしてくる……」
やや俯き加減にアデルジェスはぼそりと呟く。
「ちょっと、しっかりしなさいよ。ミゼアスがあなたのことを好きだって言ったんでしょう? だったら、それでいいじゃない」
ネリーは軽く眉を吊り上げる。
「うん……」
「そりゃあ、色恋沙汰でお客を惹きつけようとするなんてよくある話よ。でも、あなたはお客でもないじゃない。ミゼアスがそういうやり方をするっていう話も聞いたことがないし。あなた、ミゼアスのことが信じられないの?」
「いや……そういうわけじゃ……」
煮え切らない様子のアデルジェスにネリーはため息を漏らす。
「きついこと言うとね、むしろあなたが『自分にはつり合わない』なんて言い訳をしてミゼアスを捨てようとしているんじゃないかって思えるわ」
「そんな……! そんなことはない!」
アデルジェスははっと顔を上げ、否定する。そのようなことは思ってもいない。ミゼアスを捨てるなど、とんでもない話だ。
「そう? これからあなたはこの島を出て、普通の生活に戻るわ。そうしたらごく普通の可愛らしい子が現れるかもしれない。一緒に家庭を築きたくなるような相手がね。そんなとき、ミゼアスは邪魔になると思わないかしら?」
「まさか、そんなことありえないよ。ミゼアス以外の相手なんかいるはずがない」
思い出すのは昨夜、震える声でアデルジェスの元に行ってもよいかと尋ねてきたミゼアスの姿だ。あの健気な願いを邪魔と思うことなどありえない。
「そうね、確かにミゼアスは素晴らしいわ。でも、白花よ? 金持ちが愛人として囲うには最高の相手かもしれないけれど、あなたにとってはどう? あなた、結構貞操観念が強そうだったわよね。ミゼアスが他の男に抱かれていること、許せるの?」
「それは……他の相手にはもう抱かれたくないって言っていたし……」
「そう。でも、ミゼアスは今までたくさんの男たちに抱かれてきたわけよね。あなたはそれでもいいの? それに、白花としてここにいる以上、この先だって他の男に抱かれないわけにはいかないわよね。あなたは受け入れられるの?」
「それは……」
アデルジェスは口ごもる。
確かに過去のことは消しようもない。今までミゼアスを抱いた男に嫉妬はする。だが今のミゼアスはアデルジェスだけを見てくれているのだ。過去は過去と思える。
それよりも、この先もミゼアスが他の男に抱かれなくてはいけないことのほうが我慢ならなかった。
そうなるのならば、ミゼアスを壊してしまいたいと思ったこともある。しかしミゼアスと約束を交わした今、その思いは少し変わってきた。
本当に辛いのはミゼアスだ。アデルジェスではない。
アデルジェス以外にもう抱かれたくないとミゼアスは言った。その思いを抱いたまま、白花として他の男に抱かれなくてはならないのだ。
やりきれない思いを抱えるだけのアデルジェスより、実際に行為をするミゼアスのほうがはるかに辛いことだろう。
今すぐ全て受け入れることはできそうもない。しかし、島を出てアデルジェスのところに来てくれると言ったミゼアスを、それくらいのことで離したくはなかった。
真剣に話を聞いてくれるネリーに、アデルジェスはついつい自分の悩みをさらけ出していった。
「……要するに、ジェスがミゼアスにつり合わなくて捨てられるんじゃないかって悩んでいるのかしら?」
「うん……そもそも、あんな高嶺の花がどうして俺なんか好きになったんだろうって。勘違いじゃないのかなっていう気もしてくる……」
やや俯き加減にアデルジェスはぼそりと呟く。
「ちょっと、しっかりしなさいよ。ミゼアスがあなたのことを好きだって言ったんでしょう? だったら、それでいいじゃない」
ネリーは軽く眉を吊り上げる。
「うん……」
「そりゃあ、色恋沙汰でお客を惹きつけようとするなんてよくある話よ。でも、あなたはお客でもないじゃない。ミゼアスがそういうやり方をするっていう話も聞いたことがないし。あなた、ミゼアスのことが信じられないの?」
「いや……そういうわけじゃ……」
煮え切らない様子のアデルジェスにネリーはため息を漏らす。
「きついこと言うとね、むしろあなたが『自分にはつり合わない』なんて言い訳をしてミゼアスを捨てようとしているんじゃないかって思えるわ」
「そんな……! そんなことはない!」
アデルジェスははっと顔を上げ、否定する。そのようなことは思ってもいない。ミゼアスを捨てるなど、とんでもない話だ。
「そう? これからあなたはこの島を出て、普通の生活に戻るわ。そうしたらごく普通の可愛らしい子が現れるかもしれない。一緒に家庭を築きたくなるような相手がね。そんなとき、ミゼアスは邪魔になると思わないかしら?」
「まさか、そんなことありえないよ。ミゼアス以外の相手なんかいるはずがない」
思い出すのは昨夜、震える声でアデルジェスの元に行ってもよいかと尋ねてきたミゼアスの姿だ。あの健気な願いを邪魔と思うことなどありえない。
「そうね、確かにミゼアスは素晴らしいわ。でも、白花よ? 金持ちが愛人として囲うには最高の相手かもしれないけれど、あなたにとってはどう? あなた、結構貞操観念が強そうだったわよね。ミゼアスが他の男に抱かれていること、許せるの?」
「それは……他の相手にはもう抱かれたくないって言っていたし……」
「そう。でも、ミゼアスは今までたくさんの男たちに抱かれてきたわけよね。あなたはそれでもいいの? それに、白花としてここにいる以上、この先だって他の男に抱かれないわけにはいかないわよね。あなたは受け入れられるの?」
「それは……」
アデルジェスは口ごもる。
確かに過去のことは消しようもない。今までミゼアスを抱いた男に嫉妬はする。だが今のミゼアスはアデルジェスだけを見てくれているのだ。過去は過去と思える。
それよりも、この先もミゼアスが他の男に抱かれなくてはいけないことのほうが我慢ならなかった。
そうなるのならば、ミゼアスを壊してしまいたいと思ったこともある。しかしミゼアスと約束を交わした今、その思いは少し変わってきた。
本当に辛いのはミゼアスだ。アデルジェスではない。
アデルジェス以外にもう抱かれたくないとミゼアスは言った。その思いを抱いたまま、白花として他の男に抱かれなくてはならないのだ。
やりきれない思いを抱えるだけのアデルジェスより、実際に行為をするミゼアスのほうがはるかに辛いことだろう。
今すぐ全て受け入れることはできそうもない。しかし、島を出てアデルジェスのところに来てくれると言ったミゼアスを、それくらいのことで離したくはなかった。
3
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜
赤牙
BL
ある日、森の奥に仕掛けていた罠を確認しに行くと捕獲網に大きなお兄さんが捕まっていた……。
記憶を無くし頭に傷を負ったお兄さんの世話をしたら、どういう訳か懐かれてしまい、いつの間にか僕はお兄さんのご主人様になってしまう……。
森で捕まえた謎の大きなお兄さん×頑張り屋の少年奴隷
大きな問題を抱える奴隷少年に、記憶を無くした謎のスパダリお兄さんが手を差し伸べるお話です。
珍しくR指定ありません(^^)←
もし、追加する場合は表記変更と告知します〜!
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる