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78.昔のお話

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 それにエアイールはミゼアスと仲が悪いのではなかっただろうか。ミゼアスのことを話す今のエアイールの瞳は、やけに優しく感じられる。

「あの……ミゼアスとは仲があまり良くないって聞いたけれど……」

 アデルジェスはおそるおそる尋ねてみる。
 昨日のこともミゼアスに対する嫌がらせかとも思っていたのだ。しかし、どうも今の様子を見ていると違うように思える。

「そう言われていますね。確かにわたくし付きの見習いたちと、ミゼアス付きの見習いたちの仲はよろしくありません。でも、わたくしとミゼアスは仲が悪いわけではありませんよ。むしろ、わたくしはミゼアスのことを慕っております」

「え……?」

 思わずアデルジェスは疑問の声を漏らす。

「……そうですね。昔のお話をいたしましょう。借金のために売られてきた子供がおりました。この島では珍しいことではありません。しかし子供にとっては恐ろしく、不安で胸が張り裂けそうでした。子供は誰もいない路地の片隅で泣くのが日課でした」

 エアイールが穏やかに話し始める。
 この話を聞いて、アデルジェスは願掛けしていた子供のことを思い出した。

「あるとき、すすり泣く子供に声をかけてきた方がいました。輝く黄金の髪をしたその方は、まるで太陽のようで子供は目を奪われました。この世にこれほど美しい方がいるのか……と」

 エアイールは目を細め、軽く宙を仰ぐ。

「その方は子供に飴を与え、頭を撫でてくれたのです。この島での生き方も教えてくれ、励ましてくれました。後に、その方が五花にして白花の頂点であるミゼアスだと子供は知ったのです。そのときから、子供の目標はミゼアスになりました」

 エアイールの話にアデルジェスは目を見開く。
 最初は願掛けの子供と似ていたが、途中からが違う。この子供とは、おそらくエアイールのことだろう。

「この島の見習いはお金を持てないこと、もうご存知ですよね。心付けをもらったとしても、上に差し出さなくてはいけません。お金では駄目なのです。だから、ミゼアスは飴を持ち歩いているのですよ。飴ならば取り上げられませんからね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべるエアイール。

「初めて見たときから、今も変わらずミゼアスはわたくしの太陽です。そのミゼアスがあなたを想っているというのなら、あなたはミゼアスを裏切らないでくださいね。裏切ったりすれば、わたくしも黙ってはおりませんので」

 にっこりと、満面の笑みでエアイールは結んだ。
 アデルジェスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。エアイールの笑顔には底知れない凄みがある。やはりこの島に売られてきて五花にまで這い上がってくるのだから、辛酸を舐めてきているのだろう。
 アデルジェスの敵う相手ではないと実感させられた。

「う……うん……」

 怯みながらアデルジェスは返事をする。
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