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71.一瞬の嵐

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「そうそう、エアイールから手紙を預かっています。恋文です。どうぞ」

 ヴァレンは一通の封筒を取り出し、ミゼアスに渡す。ミゼアスはヴァレンの言葉は無視し、飾り気のない白い封筒から便箋を取り出して読み始める。
 徐々にミゼアスの目つきがつり上がり、歯がみしそうな表情になってきた。

「あいつ……余計なことを……」

 地を這うような声で呟く。
 それでも我慢していまいましそうに読み進めるが、途中からミゼアスの表情がまた変わってきた。今度は真剣な様子になり、最後の一枚を読みながら指を唇にあてて考え込む。

「……なるほどね。ねえ、ヴァレン。ちょっと読んでみて。これ、どう思う?」

 ミゼアスはヴァレンに後半の何枚かを渡す。

「あれ? 後半だけですか?」

「……前半部分は読まなくてもいいよ……」

「はあ……」

 気のない返事をするとヴァレンは手紙をぱらぱらとめくった。ただめくっているだけにしか見えず、本当に読んでいるのだろうかと思える速度だ。

「罠っぽいですけれど、おそらく違うでしょうね。本当だと思います」

「きみもそう思うかい?」

「あいつ、実はミゼアス兄さんのこと大好きですからね」

 ヴァレンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「……あいつの考えていることはよくわからないよ。まあ、とにかく乗ってみるか」

 ため息まじりにミゼアスが呟く。
 アデルジェスは話がよくわからないまま、黙って二人を眺めていた。願掛けをしていた子のことはわかったが、エアイールの話あたりからがよくわからない。
 するとミゼアスがアデルジェスの様子に気づいたようだった。

「あ……ごめん。最後の話はちょっと仕事関係のこと。気にしないで」

 ミゼアスが気まずそうに謝ってくる。不安げに見上げてくる姿が可愛らしい。アデルジェスは曖昧に頷いて、ミゼアスの頭を撫でた。
 するとミゼアスから不安げな表情が薄れ、代わりに嬉しそうな笑みが浮かんでくる。
 その様子を見てヴァレンは軽く笑いながら肩をすくめた。

「それでは用件も済んだので、邪魔者は消えますね。後はご存分にいちゃついてください。ジェスさん、ミゼアス兄さんのこといっぱい可愛がってあげてくださいね。ミゼアス兄さんは白花第一位だなんてお高くとまっていますけれど、実は純愛体質なんですよ。ええ、それはもう、妄執の域に達しちゃっているくらいで」

「は……はあ……」

 何と言っていいかわからず、アデルジェスは曖昧に呟く。

「ヴァレン……きみ、そんなにお仕置きが欲しいのかい……?」

 ミゼアスは唸るような声を出す。

「いえ、ミゼアス兄さんのお仕置きはきっついから遠慮します。それではっ」

 ヴァレンは素早く逃げ去っていく。
 後には『あいかわらず逃げ足の早い……』とぶつぶつ呟くミゼアスと、茫然とするアデルジェスが残された。
 まるで一瞬の嵐のようだった。
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