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70.見習いの行方

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「うっわ、ミゼアス兄さん、怒ってます? でも、常にいちゃついているんだから、仕方ないじゃないですか。昨日の夜は外に飛び出して行ったから、声もかけられなかったし」

「……それは悪かったね。で、何だい?」

 ミゼアスが促すと、ヴァレンはアデルジェスとミゼアスが座っている長椅子の反対側に移動した。

「座っていいですか?」

 反対側の椅子を指してヴァレンが問いかける。

「よし、床の上に座りなさい。膝を畳んで」

「ちょっ……それ、説教体勢ですか。せめて絨毯の上にしてください。床は固くて足が辛いんですよ」

「……仕方ない。椅子に座っていいよ」

「ありがとうございます……って、これミゼアス兄さん特製のあれですか? 少しもらっていいですか?」

 卓の上に置かれた水差しを指す。透明な硝子製の水差しの中には、ごくごく薄い紅色の液体が半分ほど入っている。先ほどアデルジェスも飲んだものだ。

「……いいよ、もう好きにしなよ」

 あきらめたようにミゼアスはため息をつく
 ヴァレンは手馴れた様子で棚から杯を持ってくると、たっぷり注いだ。

「まさかこれが飲めるとは思いませんでした。いただきます」

「……ところで、用件は何だい?」

 すでに疲れた様子でミゼアスは問いかける。

「ん……やっぱり美味しいですね。ああ、それで用件なんですけれど、昨日聞いた子のことです」

「わかったのかい?」

「ええ。直接会ってきましたよ。ミゼアス兄さんに謝っておいてほしいって言っていました。『八つ当たりした上、食べ物を粗末にしてごめんなさい』だそうです。もっとも、ミゼアス兄さんだとは知らなかったみたいですけれど」

「そう……その子は無事だったのかい?」

「大丈夫ですよ。昨日から学校にもきちんと通い始めたようです。エアイールからもらったお金は使わなかったそうですし。俺がエアイールに返しておきました」

「そうなの?」

 ミゼアスは首を傾げる。

「エアイールに『楽に飢えを満たそうとしてさらに飢えますか? 好意の飴玉一個よりも価値があると思うのならお使いなさい』と言われたそうですよ。それで考えたらしいですね。見習いはお金を持つのは禁止で、使おうとしたら酷い目にあっていたという話をしたら驚いていましたよ。上役がきちんと教えていなかったみたいですね」

「まあ……無事ならよかったよ」

 ミゼアスはゆっくりと息を吐いた。その上役には教育が必要そうだけれど、と呟く。

「ミゼアス兄さんとエアイールに言われたことをその子なりに考えたみたいですね。まだ心の整理はつかないけれど、とりあえず学校に行って勉強して昼食をもらって、まずは慣れることから始めると言っていましたよ」

「そう……その子に関しては心配はいらないようだね。ところで、エアイールにお金を返してきたと言っていたよね」

「ええ。エアイールとも話してきましたよ。何でそんなことをしたのかって聞いたら、『腹立たしかったもので』と返ってきましたよ」

 ヴァレンはくすりと笑う。

「何でも、ミゼアス兄さんがその子に目をかけてやったのに、恩を仇で返すようなことを仕出かしたのが気に入らなかったそうですよ。お金を返したら『使って、海にでも投げ込まれていればよかったのに』なんてぶつぶつ言っていました」

「……エアイールらしいね」

 ミゼアスはため息を漏らす。
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