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67.やりきれない恋心

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「全然優しくなかった」

 アデルジェスに背を見せ、ミゼアスはつーんとそっぽを向いた。

「ごめん……でも、あんなにお預けされていたんだもの、仕方ないだろう……」

 それにミゼアスだって楽しんでいたではないか。そうは思ったものの、アデルジェスはそれを口にはしなかった。
 代わりにご機嫌を取るように、ミゼアスの髪や背中を撫でる。

「……まあ、気持ちはよかったよ。ちょっと乱暴だったけど」

 機嫌が直ってきたようで、ミゼアスがため息を漏らしながら呟く。

「あのさ……」

 ためらいがちに声をかけると、ミゼアスがようやくアデルジェスと向き合う形に身体を動かす。

「どうしたの?」

「……名前、教えてもらえないかな……?」

 アデルジェスの言葉に、ミゼアスがきょとんとした顔をする。

「名前?」

「あの……本名を教えてもらえたらって……」

「あぁ……本名ね。そういえば、そんなのあったな。すっかり忘れていたよ」

 ミゼアスはやっと納得した顔をする。

「……その前にさ、きみ……この島に残る気、ない?」

「え?」

 アデルジェスは目を見開く。

「狭い島だし、たいしたものはないけれど……僕はまだ当分稼げるだろうから、生活には困らないと思う。きみが側にいてくれたら……」

 ミゼアスの言葉にアデルジェスは呆然とする。
 まさかミゼアスがこんなことを言い出すとは思ってもいなかった。

 しかし、現実的ではないように思えた。
 この島でアデルジェスに仕事があれば、まだよいかもしれない。だがミゼアスに養ってもらうのでは、より借金も増えていく泥沼となってしまうのではないだろうか。それではいつまでもミゼアスは籠の鳥のままだ。
 それにアデルジェスにも男としての矜持がある。恋人に身を売らせて金を掠め取るなんて、最低だ。そんなことはできない。

 今は数日間の休暇中で羽を伸ばしてはいるが、休暇が終わればまた働く。
 仕事もしないで常にごろごろとしている生活なんて、真面目で貧乏性なアデルジェスには考えられもしなかった。

「それは……無理だと思う……俺も側にいたいけれど……」

「そうか……そうだよね。ごめん、忘れて」

 ミゼアスは寂しげに微笑んでそう言うと、アデルジェスの胸に顔を埋める。

「僕の本名……きみが島を出るときに教えてあげるよ。今は……もう一度、今度こそ優しく抱いて……」

 アデルジェスはやりきれなかった。お互いに想い合っていると喜びに浸ったのも束の間、すぐに立ちはだかる壁に打ちのめされる。
 やはりこの恋は数日間だけの夢なのだろうか。
 胸にわきあがる無力感を押さえつけ、せめて今だけでもミゼアスが腕の中にいる幸福に酔おうと、アデルジェスはミゼアスに口づけた。
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