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29.願掛けする子供
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「きみ、何をやっているんだい?」
海亀の像に向かって背伸びをする子供に、ミゼアスが声をかける。
子供は動きをいったん止め、ミゼアスに向き合った。
「願い事、しようと思って……」
子供は俯きながら答える。
「何を?」
「帰りたい……元に戻りたい……」
震える声で子供が呟く。
「父さんの商売が失敗して、借金がいっぱいになって……売られたの……。だから、なかったことにしてくださいってお願いしているの……」
「残念だけれど、なかったことにはならないよ。それより、学校はどうしたんだい?」
「願い事が叶ったら、行かなくてもよくなるもん……。毎日頑張ってお願いしているんだから……」
涙声で答える子供に、ミゼアスはため息を漏らした。
「あのねぇ……頑張るところが違うよ。きみが売られたっていう事実は変わらないんだ。どうやったら早く借金を返せるか、そっちのほうを頑張りなよ」
ミゼアスの言葉に子供がぼろぼろと涙を零す。
子供相手に容赦ないのではないかと思ったが口には出さず、アデルジェスは成り行きを見守った。
「学校に行かないと昼食だって当たらないだろう。お腹空いているんじゃないのかい?」
「……空いている……」
「だったら学校に行きなさい。ほら、これあげるから」
そう言ってミゼアスは飴玉を渡す。
「……これっぽっちじゃ足りない。前は毎日ご馳走だった。お腹いっぱい食べられた。これっぽっちじゃなくって、もっとちょうだいよ!」
泣きながら子供はミゼアスに飴を投げつけた。
ミゼアスは胸に当たって落ちていく途中の飴を器用に拾い上げる。それから冷めた目で子供を見ると、その頬を平手で打った。
パァン……と乾いた音が響く。
「甘ったれるんじゃないよ。現実を見てみるんだね。今のきみは裕福なお坊ちゃまでも何でもないんだ。きみはこの飴玉一つ分の稼ぎすらない、半人前以下なんだよ。いっぱい食べたかったら、早く自分で稼げるようになるんだね」
冷淡な声でミゼアスは言い放つ。
「僕はね、食べ物を粗末にする奴が大嫌いなんだ。たかが飴玉一つと思っているだろうけれど、それだってあるだけましなんだよ」
言い捨てると、ミゼアスは子供に背を向けて歩き出してしまった。
振り返ることもせず、どんどん先に行ってしまうミゼアスをとっさに追うことができないまま、アデルジェスは立ち尽くす。
すぐ側では子供がうずくまって泣いている。
どうすればよいものかと困っていると、子供の側に屈みこむ姿があった。誰だろうと思えば、先ほども見た姿だった。
「飴では足りないのですね? お腹を空かせてかわいそうに……これで何か買いなさい」
エアイールが子供に何かを握らせていた。どうやらお金のようだった。
「……ミゼアスを追いかけたほうがよろしいのではありませんか?」
驚いて目を見開く子供に微笑みかけると、エアイールはアデルジェスに顔を向けることもなく声をかけてくる。
その言葉にはっとし、アデルジェスは大分遠ざかってしまったミゼアスの後姿を追って駆け出した。
海亀の像に向かって背伸びをする子供に、ミゼアスが声をかける。
子供は動きをいったん止め、ミゼアスに向き合った。
「願い事、しようと思って……」
子供は俯きながら答える。
「何を?」
「帰りたい……元に戻りたい……」
震える声で子供が呟く。
「父さんの商売が失敗して、借金がいっぱいになって……売られたの……。だから、なかったことにしてくださいってお願いしているの……」
「残念だけれど、なかったことにはならないよ。それより、学校はどうしたんだい?」
「願い事が叶ったら、行かなくてもよくなるもん……。毎日頑張ってお願いしているんだから……」
涙声で答える子供に、ミゼアスはため息を漏らした。
「あのねぇ……頑張るところが違うよ。きみが売られたっていう事実は変わらないんだ。どうやったら早く借金を返せるか、そっちのほうを頑張りなよ」
ミゼアスの言葉に子供がぼろぼろと涙を零す。
子供相手に容赦ないのではないかと思ったが口には出さず、アデルジェスは成り行きを見守った。
「学校に行かないと昼食だって当たらないだろう。お腹空いているんじゃないのかい?」
「……空いている……」
「だったら学校に行きなさい。ほら、これあげるから」
そう言ってミゼアスは飴玉を渡す。
「……これっぽっちじゃ足りない。前は毎日ご馳走だった。お腹いっぱい食べられた。これっぽっちじゃなくって、もっとちょうだいよ!」
泣きながら子供はミゼアスに飴を投げつけた。
ミゼアスは胸に当たって落ちていく途中の飴を器用に拾い上げる。それから冷めた目で子供を見ると、その頬を平手で打った。
パァン……と乾いた音が響く。
「甘ったれるんじゃないよ。現実を見てみるんだね。今のきみは裕福なお坊ちゃまでも何でもないんだ。きみはこの飴玉一つ分の稼ぎすらない、半人前以下なんだよ。いっぱい食べたかったら、早く自分で稼げるようになるんだね」
冷淡な声でミゼアスは言い放つ。
「僕はね、食べ物を粗末にする奴が大嫌いなんだ。たかが飴玉一つと思っているだろうけれど、それだってあるだけましなんだよ」
言い捨てると、ミゼアスは子供に背を向けて歩き出してしまった。
振り返ることもせず、どんどん先に行ってしまうミゼアスをとっさに追うことができないまま、アデルジェスは立ち尽くす。
すぐ側では子供がうずくまって泣いている。
どうすればよいものかと困っていると、子供の側に屈みこむ姿があった。誰だろうと思えば、先ほども見た姿だった。
「飴では足りないのですね? お腹を空かせてかわいそうに……これで何か買いなさい」
エアイールが子供に何かを握らせていた。どうやらお金のようだった。
「……ミゼアスを追いかけたほうがよろしいのではありませんか?」
驚いて目を見開く子供に微笑みかけると、エアイールはアデルジェスに顔を向けることもなく声をかけてくる。
その言葉にはっとし、アデルジェスは大分遠ざかってしまったミゼアスの後姿を追って駆け出した。
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