きみを待つ

四葉 翠花

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後日談

それぞれの道~ガルト~

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 ガルトは籠いっぱいの野菜を抱えて歩いていた。島を出たての頃は重い物の持ち上げ方など忘れていたが、もうずいぶんと慣れたものだ。

「ガルト」

 愛しい相手に名を呼ばれ、ガルトはにっこりと笑う。

「とれたての野菜をもらいましたよ。美味しそうでしょう?」

 籠の中身を見せると、ガルトは厨房へと向かい、卓の上に籠を置く。

「……もしかして、私はきみに悪いことをしてしまったのではないかと思うよ」

「何がですか?」

「きみは不夜島の四花だった。もっと、華やかな暮らしを想像していたのではないかい? 夜毎の夜会や、絹と宝石に囲まれた優雅な生活なんかをね」

「そんなこと」

 申し訳なさそうに言う相手に、ガルトは首を横に振った。

「俺は今の暮らしに、一点の不満もありません。立派な家があって、食べるものもあって、それに……何より、あなたがいるから」

 そう言って、ガルトはもじもじと俯く。
 ガルトを身請けしてくれた男は、大貴族の息子だった。しかしお偉い家のいろいろな事情というやつにより、金を使うことは許されても自由が制限されていたという。結婚も許されてはいなかったそうだ。
 それが不夜島の白花ならいいだろうという許しが出て、小さな領地をもらった。今や男は領主であり、ガルトはその配偶者ということになる。

 とはいっても、小さな領地は本当に小さな田舎だ。領主というより、村長と呼ぶほうがふさわしいくらいだった。
 実際、男は飼い殺しにされているのだろう。ここは生きながらにして葬られた墓場であり、ガルトは共に捧げられた供物というわけである。

 しかし、これほど幸せな墓場があるだろうか。
 小さな田舎ではあったが、土地は肥えていて豊かだ。朴訥な人々は気さくで、二人を快く迎えてくれた。派手な暮らしも贅沢な品もないが、素朴で温かい日々がある。
 愛する人と二人、穏やかで幸福な生活を営むことが零落だとは、貴族とは不思議なものだ。

「ガルト……私は幸せだよ。その野菜よりも美味しそうな、きみを食べたい」

「ええっ……まだ、こんな明るい時間なのに……」

「駄目かい?」

「いえ……駄目っていうわけじゃ……でも……」


◆ ◆ ◆


 また昼間から、あの二人はいちゃいちゃとうっとうしい。じゃれあっていないで、やるのならさっさと寝室にでも行ってしまえばよいのだ。
 厨房の入り口で、手伝いにやってきた農婦は入るに入れず、盛大なため息を漏らした。
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本編『不夜島の少年
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