51 / 63
51.いつか会えるから
しおりを挟む
「……本当に、会えるの?」
ぼそり、と尋ねる。
「うん、絶対会えるよ! だから、戻ろうよ」
大きな幼馴染は希望に瞳を輝かせ、尚も呼びかけてくる。
戻れば、待っているのはまた男たちの相手をする日々だ。いつか会えるといっても、いつなのだろうか。何年先になるのか、それとも何十年なのか、わからない。
ミゼアスは小さな幼馴染を見る。昔と同じ懐かしい姿で、笑みを浮かべて手を差し出している。
この手を取れば、もうつらい思いをすることはないのだ。ずっと、懐かしい思い出に浸っていられる。
儚い希望を抱いてつらい日々に戻るか、先の存在しない安寧に浸るか――
しかし、小さな幼馴染の瞳を見たとき、違和感が押し寄せた。瞳にミゼアスを映しているが、本当に見てはいない。空っぽの瞳だった。
大きな幼馴染の瞳を見てみる。黙ってしまったミゼアスに不安げではあるが、しっかりとミゼアスの姿を捉えていた。
不意に涙がこみあげてきた。本当に懐かしくて、愛しいのはこちらだ。
「……会えるなら、戻る」
ミゼアスは大きな幼馴染の手を取った。じわり、と温もりが広がる。弾けるような笑みを浮かべた幼馴染の顔がミゼアスの目に映った。ミゼアスもつられて笑う。
すると空間がぐにゃりと歪んだ。
全てが薄れていく。手を取らなかった小さな幼馴染の姿も、手を取った大きな幼馴染の姿も。
手の温もりだけはまだ残っていたが、足下も薄れ、崩れていく。
「待っているから! 僕、ずっと待っているから!」
落下していくような感覚の中、ミゼアスはひたすら叫んだ。
ぱちり、とミゼアスは目を開けた。
「ミゼアス兄さん……!」
ヴァレンの声が響く。涙でぐちゃぐちゃになった顔がミゼアスの目に入ってくる。
「……ひどい顔だよ。涙を拭きなさい」
苦笑してミゼアスが言うと、ヴァレンはよけいに涙を流してミゼアスにしがみついた。
「ミゼアス兄さん! ミゼアス兄さん!」
何度も名を呼び、ヴァレンはミゼアスにしがみついて泣く。
ミゼアスは力の入らない手でゆっくりとその背中を撫でながら、夢の出来事を思い出す。ぼんやりとしか覚えていないが、幼馴染に会えたような気がする。
いつか会えるから待っていて、と言われたような気がした。もしかしたらミゼアスが作り出した、都合の良い幻想だったのかもしれない。それでも、幸福だった。
「茶色の髪に水色の瞳をした男の子が、ミゼアス兄さんのことを頼むって……。いつか会えるから待っていてほしいと伝えてって……」
ヴァレンの言葉に、思わずミゼアスは耳を疑う。夢そのものではないか。あれは本当の出来事だったのだろうか。
「ねえ、ヴァレン、それって……」
しかしミゼアスが問いかけようとすると、ヴァレンはミゼアスにしがみついたまま動かなくなってしまった。どうしたのかと思えば、穏やかな寝息が聞こえてくる。眠ってしまったようだ。
不思議な気分のまま、ミゼアスはヴァレンに毛布をかけてやった。
このまま生きていれば、本当にいつか幼馴染に会えるのかもしれない。
「ジェス……僕、頑張るよ……待っているから……」
ぼそり、と尋ねる。
「うん、絶対会えるよ! だから、戻ろうよ」
大きな幼馴染は希望に瞳を輝かせ、尚も呼びかけてくる。
戻れば、待っているのはまた男たちの相手をする日々だ。いつか会えるといっても、いつなのだろうか。何年先になるのか、それとも何十年なのか、わからない。
ミゼアスは小さな幼馴染を見る。昔と同じ懐かしい姿で、笑みを浮かべて手を差し出している。
この手を取れば、もうつらい思いをすることはないのだ。ずっと、懐かしい思い出に浸っていられる。
儚い希望を抱いてつらい日々に戻るか、先の存在しない安寧に浸るか――
しかし、小さな幼馴染の瞳を見たとき、違和感が押し寄せた。瞳にミゼアスを映しているが、本当に見てはいない。空っぽの瞳だった。
大きな幼馴染の瞳を見てみる。黙ってしまったミゼアスに不安げではあるが、しっかりとミゼアスの姿を捉えていた。
不意に涙がこみあげてきた。本当に懐かしくて、愛しいのはこちらだ。
「……会えるなら、戻る」
ミゼアスは大きな幼馴染の手を取った。じわり、と温もりが広がる。弾けるような笑みを浮かべた幼馴染の顔がミゼアスの目に映った。ミゼアスもつられて笑う。
すると空間がぐにゃりと歪んだ。
全てが薄れていく。手を取らなかった小さな幼馴染の姿も、手を取った大きな幼馴染の姿も。
手の温もりだけはまだ残っていたが、足下も薄れ、崩れていく。
「待っているから! 僕、ずっと待っているから!」
落下していくような感覚の中、ミゼアスはひたすら叫んだ。
ぱちり、とミゼアスは目を開けた。
「ミゼアス兄さん……!」
ヴァレンの声が響く。涙でぐちゃぐちゃになった顔がミゼアスの目に入ってくる。
「……ひどい顔だよ。涙を拭きなさい」
苦笑してミゼアスが言うと、ヴァレンはよけいに涙を流してミゼアスにしがみついた。
「ミゼアス兄さん! ミゼアス兄さん!」
何度も名を呼び、ヴァレンはミゼアスにしがみついて泣く。
ミゼアスは力の入らない手でゆっくりとその背中を撫でながら、夢の出来事を思い出す。ぼんやりとしか覚えていないが、幼馴染に会えたような気がする。
いつか会えるから待っていて、と言われたような気がした。もしかしたらミゼアスが作り出した、都合の良い幻想だったのかもしれない。それでも、幸福だった。
「茶色の髪に水色の瞳をした男の子が、ミゼアス兄さんのことを頼むって……。いつか会えるから待っていてほしいと伝えてって……」
ヴァレンの言葉に、思わずミゼアスは耳を疑う。夢そのものではないか。あれは本当の出来事だったのだろうか。
「ねえ、ヴァレン、それって……」
しかしミゼアスが問いかけようとすると、ヴァレンはミゼアスにしがみついたまま動かなくなってしまった。どうしたのかと思えば、穏やかな寝息が聞こえてくる。眠ってしまったようだ。
不思議な気分のまま、ミゼアスはヴァレンに毛布をかけてやった。
このまま生きていれば、本当にいつか幼馴染に会えるのかもしれない。
「ジェス……僕、頑張るよ……待っているから……」
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる