きみを待つ

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
30 / 63

30.見習いたちの失態

しおりを挟む
 ヴァレンの描いた似顔絵を娼館主に渡し、簡単に事情を説明すると、ミゼアスは客を迎える準備に取り掛かる。
 ヴァレンも支度を手伝い、最後に厨房へと向かった。しかし、なかなか戻ってこない。他の準備は終わったというのに姿を見せないヴァレンを不審に思い、ミゼアスは厨房へと向かうことにした。
 すると、騒がしい声が聞こえてきたのだ。

「返せ!」

「嫌だね!」

 ばたばたと走り回る音、怒鳴り声が響く。
 見習い二人が追いかけっこをしているようだった。一人はヴァレン、もう一人は以前ミゼアス付きからはずしたネヴィルだ。
 二人は廊下を走り回り、待合室の近くにまでやってきてしまっていた。
 何事かと思って追いかけてきたミゼアスだったが、そこでガルトと会った。ガルトは驚いたようにミゼアスを見ると、視線をそらしてしまった。

「返せよ!」

 ネヴィルが叫んで、ヴァレンに体当たりする。

「ちょっ……!」

 するとヴァレンが体勢を崩して、手に持っていた何かがすっぽ抜けて飛んでいく。
 ヴァレンの手から放たれた何かは、綺麗な放物線を描いて飛んでいき、その先にいた男の額に当たった。

「あっ……!」

 ヴァレンもネヴィルも、ミゼアスやガルトまで息を詰めて何かがぶつかった男を見る。
 男は両手で額を押さえてしゃがみこみ、震える。足下には小瓶が転がっていた。ぶつかったものは小瓶のようだ。

「……ここでは、客にこのような仕打ちをするのか?」

 ゆっくりと顔を上げ、地を這うような声で男が言葉を紡ぐ。額が赤く腫れていた。血が出ている様子はなかったが、痛そうだ。

「も……申し訳ございません!」

 ミゼアスは慌てて走り寄り、男の前に跪いて謝罪の言葉を述べる。
 客を傷つけることなど、あってはならない重罪だ。客の側に非があってすら罰せられる行為だというのに、男に非はない。いくら見習いで子供だといっても、許されることではなかった。
しおりを挟む
本編『不夜島の少年
感想 2

あなたにおすすめの小説

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

関係転換学各論A

はいじ@書籍発売中
BL
スゲェイケメンが来てから、それまで学校1のイケメンポジションに居た普通のイケメンは女子から睨まれ、男子から憐れまれる。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...