29 / 63
29.似顔絵
しおりを挟む
やがてヴァレンが目を覚ました。
「あれ? 俺、寝ちゃってました?」
すっかりけろりとした顔をし、ヴァレンは不思議そうに呟く。まるでいつの間にか昼寝をしてしまったといわんばかりの様子だった。
無事な様子に胸を撫で下ろしながら、ミゼアスは状況を説明する。
「ああ……そういえば、砂糖菓子を食べてからよく覚えていないような……心配かけて、ごめんなさい」
ヴァレンは寝台の上で上半身を起こしながら、ちょこんと頭を下げて謝る。
「きみが謝る必要なんてない。僕の不注意だ。きみを苦しめてしまって、本当にすまない……」
「大丈夫です! 最初は熱かったような気がしますけれど、途中から何だかふわふわと気持ちのいい夢を見ていたように思います」
ミゼアスは自らの不甲斐なさにいたたまれなくなりながら謝罪するが、ヴァレンはあっさりと受け流した。
「……えっと、夢のことは覚えている?」
「え? いえ……何だか、気持ちよかったなーくらいにしか覚えていません」
首を傾げてヴァレンは答える。どうやら、口づけのことは覚えていないようだ。
「どうかしましたか?」
「ん……いや、別に……えっと、それよりもきみが道案内をしたっていう客のことだけれど……」
どうも照れくさくなってしまい、ミゼアスは話題を変える。覚えていないのなら、それはそれでよい。
ヴァレンはややきょとんとした顔をしていたが何も言わず、ミゼアスの話に耳を傾けていた。
予想どおり、ヴァレンは道案内をした客のことをしっかり覚えていた。特徴を聞き出そうとしたら、ヴァレンは似顔絵を描き始めた。迷いなく、筆が動いていく。
まもなく出来上がったのは、とても精巧で緻密な絵だった。人そのものが紙の中に閉じ込められているかのようだ。
さらにヴァレンは『左耳の下にほくろ』などの特徴を記載していく。
「こんな感じですー」
ひととおり記載も終えたようで、ヴァレンは似顔絵をミゼアスに渡す。
これ以上に詳しい似顔絵など、ありえなさそうな出来だ。
「きみ……凄いね……」
ミゼアスも絵画のたしなみはあったが、ここまで精密な絵は描けそうにない。思わず感嘆の吐息を漏らす。
「じゃあ、今晩のお仕事の準備をしないと」
平然とヴァレンは日常に戻ろうとする。
「え? きみ、今日は休んでいていいよ。疲れただろう」
「いえ、大丈夫です! 今日も頑張ります!」
びしっと片手を上げて、ヴァレンは宣言した。
「無理していないかい? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です! それに、今日は頑張らなきゃいけません!」
ミゼアスの心配をよそに、ヴァレンは声を張り上げる。
「はあ……」
確かに元気そうだし、本人がここまで言うのなら……とミゼアスも承諾した。
今日の予定は、あの茶色の髪に水色の瞳を持つ客だ。
ヴァレンが何故今日は頑張らなければならないのかは不明だが、もしかしたらあの客のことを気に入っているのかもしれない。
あまり深く考えず、ミゼアスは支度を始めることにした。
「あれ? 俺、寝ちゃってました?」
すっかりけろりとした顔をし、ヴァレンは不思議そうに呟く。まるでいつの間にか昼寝をしてしまったといわんばかりの様子だった。
無事な様子に胸を撫で下ろしながら、ミゼアスは状況を説明する。
「ああ……そういえば、砂糖菓子を食べてからよく覚えていないような……心配かけて、ごめんなさい」
ヴァレンは寝台の上で上半身を起こしながら、ちょこんと頭を下げて謝る。
「きみが謝る必要なんてない。僕の不注意だ。きみを苦しめてしまって、本当にすまない……」
「大丈夫です! 最初は熱かったような気がしますけれど、途中から何だかふわふわと気持ちのいい夢を見ていたように思います」
ミゼアスは自らの不甲斐なさにいたたまれなくなりながら謝罪するが、ヴァレンはあっさりと受け流した。
「……えっと、夢のことは覚えている?」
「え? いえ……何だか、気持ちよかったなーくらいにしか覚えていません」
首を傾げてヴァレンは答える。どうやら、口づけのことは覚えていないようだ。
「どうかしましたか?」
「ん……いや、別に……えっと、それよりもきみが道案内をしたっていう客のことだけれど……」
どうも照れくさくなってしまい、ミゼアスは話題を変える。覚えていないのなら、それはそれでよい。
ヴァレンはややきょとんとした顔をしていたが何も言わず、ミゼアスの話に耳を傾けていた。
予想どおり、ヴァレンは道案内をした客のことをしっかり覚えていた。特徴を聞き出そうとしたら、ヴァレンは似顔絵を描き始めた。迷いなく、筆が動いていく。
まもなく出来上がったのは、とても精巧で緻密な絵だった。人そのものが紙の中に閉じ込められているかのようだ。
さらにヴァレンは『左耳の下にほくろ』などの特徴を記載していく。
「こんな感じですー」
ひととおり記載も終えたようで、ヴァレンは似顔絵をミゼアスに渡す。
これ以上に詳しい似顔絵など、ありえなさそうな出来だ。
「きみ……凄いね……」
ミゼアスも絵画のたしなみはあったが、ここまで精密な絵は描けそうにない。思わず感嘆の吐息を漏らす。
「じゃあ、今晩のお仕事の準備をしないと」
平然とヴァレンは日常に戻ろうとする。
「え? きみ、今日は休んでいていいよ。疲れただろう」
「いえ、大丈夫です! 今日も頑張ります!」
びしっと片手を上げて、ヴァレンは宣言した。
「無理していないかい? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です! それに、今日は頑張らなきゃいけません!」
ミゼアスの心配をよそに、ヴァレンは声を張り上げる。
「はあ……」
確かに元気そうだし、本人がここまで言うのなら……とミゼアスも承諾した。
今日の予定は、あの茶色の髪に水色の瞳を持つ客だ。
ヴァレンが何故今日は頑張らなければならないのかは不明だが、もしかしたらあの客のことを気に入っているのかもしれない。
あまり深く考えず、ミゼアスは支度を始めることにした。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる