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26.明けぬ夜
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医者は媚薬入り砂糖菓子の残るヴァレンの口を清めて薬を飲ませると、寝台に移して額を冷たい布で冷やした。
「……これでしばらくすれば、落ち着くじゃろうよ。命に別状はないし、心配ないよ」
医者の言葉にミゼアスは胸を撫で下ろす。身体から力が抜けていくようだった。
「それにしても、ずいぶんと凄いものを持ち出してきたようじゃのう。そりゃあ、おそらく『明けぬ夜』じゃろう。効果が強すぎて、この島では取り扱いが禁止になった媚薬じゃよ」
砂糖菓子の入った袋を差し、医者はため息交じりに呟く。
「……『明けぬ夜』?」
眉を寄せてミゼアスは言われた名をなぞる。初めて聞く名だった。
「ミゼアス坊は若いから知らんか。七、八年くらい前に一部で流行ったんじゃが、死人まで出てしまってのう。色狂いになって戻らなくなってしまった者もおる。とても強力で危険な薬じゃよ」
医者の言葉にミゼアスは驚いてヴァレンを見る。
先ほどまで荒かった呼吸は徐々に落ち着いてきているようだ。顔からも苦痛の色が薄れてきたように思える。
「ヴァレン坊がまだ快楽を知らず、精も吐き出せぬ身体でよかったのう。ただ熱に浮かされるだけで、これなら押さえようがある。おまえさんが摂取していたら、危なかったよ」
「僕が摂取していたら?」
「手近にいたヴァレン坊を襲っていたか、それとも誰かれ構わずすがりついて抱いてくれと懇願していたか……何にせよ、ろくなことにはなっとらんよ。『明けぬ夜』は精を吐き出すほどに飢餓状態となり、狂っていく薬じゃからのう」
恐ろしい話だ。ミゼアスはぞくりとする。
寝台の上のヴァレンは先ほどよりも大分楽そうにはなっていたが、まだ痛々しい。
「ヴァレン……」
ミゼアスは苦しげにヴァレンを見つめ、名を呼ぶ。
「このまま放っておいてもいずれ収まるが……楽になるのを早める方法がある」
「それは何だい? 僕にできることなら……」
もったいぶった医者の言葉にミゼアスは食いつく。自分にできることなら、何でもしてやりたかった。
「おまえさんの体液をヴァレン坊に飲ませるんじゃよ」
「はい?」
「体液。まあ、精液あたりが手っ取り早いかのう」
しかし医者の台詞はとんでもないものだった。
「……これでしばらくすれば、落ち着くじゃろうよ。命に別状はないし、心配ないよ」
医者の言葉にミゼアスは胸を撫で下ろす。身体から力が抜けていくようだった。
「それにしても、ずいぶんと凄いものを持ち出してきたようじゃのう。そりゃあ、おそらく『明けぬ夜』じゃろう。効果が強すぎて、この島では取り扱いが禁止になった媚薬じゃよ」
砂糖菓子の入った袋を差し、医者はため息交じりに呟く。
「……『明けぬ夜』?」
眉を寄せてミゼアスは言われた名をなぞる。初めて聞く名だった。
「ミゼアス坊は若いから知らんか。七、八年くらい前に一部で流行ったんじゃが、死人まで出てしまってのう。色狂いになって戻らなくなってしまった者もおる。とても強力で危険な薬じゃよ」
医者の言葉にミゼアスは驚いてヴァレンを見る。
先ほどまで荒かった呼吸は徐々に落ち着いてきているようだ。顔からも苦痛の色が薄れてきたように思える。
「ヴァレン坊がまだ快楽を知らず、精も吐き出せぬ身体でよかったのう。ただ熱に浮かされるだけで、これなら押さえようがある。おまえさんが摂取していたら、危なかったよ」
「僕が摂取していたら?」
「手近にいたヴァレン坊を襲っていたか、それとも誰かれ構わずすがりついて抱いてくれと懇願していたか……何にせよ、ろくなことにはなっとらんよ。『明けぬ夜』は精を吐き出すほどに飢餓状態となり、狂っていく薬じゃからのう」
恐ろしい話だ。ミゼアスはぞくりとする。
寝台の上のヴァレンは先ほどよりも大分楽そうにはなっていたが、まだ痛々しい。
「ヴァレン……」
ミゼアスは苦しげにヴァレンを見つめ、名を呼ぶ。
「このまま放っておいてもいずれ収まるが……楽になるのを早める方法がある」
「それは何だい? 僕にできることなら……」
もったいぶった医者の言葉にミゼアスは食いつく。自分にできることなら、何でもしてやりたかった。
「おまえさんの体液をヴァレン坊に飲ませるんじゃよ」
「はい?」
「体液。まあ、精液あたりが手っ取り早いかのう」
しかし医者の台詞はとんでもないものだった。
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