きみを待つ

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
26 / 63

26.明けぬ夜

しおりを挟む
 医者は媚薬入り砂糖菓子の残るヴァレンの口を清めて薬を飲ませると、寝台に移して額を冷たい布で冷やした。

「……これでしばらくすれば、落ち着くじゃろうよ。命に別状はないし、心配ないよ」

 医者の言葉にミゼアスは胸を撫で下ろす。身体から力が抜けていくようだった。

「それにしても、ずいぶんと凄いものを持ち出してきたようじゃのう。そりゃあ、おそらく『明けぬ夜』じゃろう。効果が強すぎて、この島では取り扱いが禁止になった媚薬じゃよ」

 砂糖菓子の入った袋を差し、医者はため息交じりに呟く。

「……『明けぬ夜』?」

 眉を寄せてミゼアスは言われた名をなぞる。初めて聞く名だった。

「ミゼアス坊は若いから知らんか。七、八年くらい前に一部で流行ったんじゃが、死人まで出てしまってのう。色狂いになって戻らなくなってしまった者もおる。とても強力で危険な薬じゃよ」

 医者の言葉にミゼアスは驚いてヴァレンを見る。
 先ほどまで荒かった呼吸は徐々に落ち着いてきているようだ。顔からも苦痛の色が薄れてきたように思える。

「ヴァレン坊がまだ快楽を知らず、精も吐き出せぬ身体でよかったのう。ただ熱に浮かされるだけで、これなら押さえようがある。おまえさんが摂取していたら、危なかったよ」

「僕が摂取していたら?」

「手近にいたヴァレン坊を襲っていたか、それとも誰かれ構わずすがりついて抱いてくれと懇願していたか……何にせよ、ろくなことにはなっとらんよ。『明けぬ夜』は精を吐き出すほどに飢餓状態となり、狂っていく薬じゃからのう」

 恐ろしい話だ。ミゼアスはぞくりとする。
 寝台の上のヴァレンは先ほどよりも大分楽そうにはなっていたが、まだ痛々しい。

「ヴァレン……」

 ミゼアスは苦しげにヴァレンを見つめ、名を呼ぶ。

「このまま放っておいてもいずれ収まるが……楽になるのを早める方法がある」

「それは何だい? 僕にできることなら……」

 もったいぶった医者の言葉にミゼアスは食いつく。自分にできることなら、何でもしてやりたかった。

「おまえさんの体液をヴァレン坊に飲ませるんじゃよ」

「はい?」

「体液。まあ、精液あたりが手っ取り早いかのう」

 しかし医者の台詞はとんでもないものだった。
しおりを挟む
本編『不夜島の少年
感想 2

あなたにおすすめの小説

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...