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16.五花の在り方
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結局、ミゼアスは学校終了時間まで特別授業とやらをすることになってしまった。
主に質疑応答と花月琴の指導だったが、子供たちにも良い刺激になったようだ。教師はたまにこうやって、現役に指導してもらうのも良さそうだと頷いていた。
今はそれぞれの上役が個別に指導はしているが、上役以外の白花から教わる機会など滅多にない。そういった機会を作ることも考えてみてくれと言われ、ミゼアスは驚いてしまった。
しかし、よく考えればミゼアスは五花なのだ。そういった仕組みにまで口を出せるのが五花である。
とにかく上を目指してたどり着いた五花だったが、その重みについてあまりミゼアスは考えてこなかった。
質問をしてくる子供たちの目には、憧れと羨望の色があった。五花とはこの島の最高位であり、憧れでもあれば目標でもあるのだ。子供たちの目標が形となったのが、ミゼアスなのだ。
早く借金を返して帰ることを考え、結果として五花になっただけのミゼアスは、そういった意識が希薄だった。
そんなものよりも、本当に欲しかったものは別にある。五花のくせにと言われるたび、心の中でそう思って拳を握り締めてきた。
だが、今日の子供たちの眼差しを見ていると、それではいけないと思えてきた。
あの子たちの目標としてふさわしくありたい。売られてきた寄る辺ない子供がここまでなれるのだという希望を見せたい。
ミゼアスは初めて五花としてのありようを意識し始めた。
「……ごめんなさい」
帰り道、ヴァレンがぼそっと口を開いた。
特別授業を終えたミゼアスは、ヴァレンと一緒に帰り道を歩んでいるところだった。木立の並ぶ通りにはミゼアスとヴァレン以外の姿は見当たらない。
「俺のこと、心配してくれたんですよね。わざわざ学校まで……ごめんなさい」
しゅんとした様子でヴァレンは謝罪の言葉を繰り返す。
ミゼアスはやわらかな微笑みを浮かべて、ヴァレンの頭を撫でた。
「きみには落ち込んだ様子なんて似合わないよ。僕は上役としてまだまだ頼りないだろうけれど、ふさわしくなれるよう努力するよ。きみにも、一人で抱えてほしくない。顔に傷をつけるなんて、とんでもないことだよ。何があったのか、僕に話してくれないかな」
穏やかに話すと、ヴァレンが何かをこらえるように唇を歪めてミゼアスを見る。
「……怒りません?」
不安げにヴァレンが問いかけてくる。声がかすかに震えていた。
「怒らないよ」
ミゼアスは優しく答えて、ヴァレンをそっと抱きしめる。ヴァレンは一瞬、びくっと身を震わせたが、抗いはしなかった。
「……本当に、本当に?」
さらに確認してくるヴァレンに、ミゼアスは胸が締め付けられる。よほどつらい目にあったのだろうか。
「大丈夫だよ。怒らないから、話してみて」
ヴァレンの頭を撫でながらミゼアスは促す。
「実は……」
ようやくヴァレンが重い口を開く。ミゼアスはどのようなつらい話であっても、ヴァレンと一緒に乗り越えていこうと決意し、静かに耳を傾けた。
主に質疑応答と花月琴の指導だったが、子供たちにも良い刺激になったようだ。教師はたまにこうやって、現役に指導してもらうのも良さそうだと頷いていた。
今はそれぞれの上役が個別に指導はしているが、上役以外の白花から教わる機会など滅多にない。そういった機会を作ることも考えてみてくれと言われ、ミゼアスは驚いてしまった。
しかし、よく考えればミゼアスは五花なのだ。そういった仕組みにまで口を出せるのが五花である。
とにかく上を目指してたどり着いた五花だったが、その重みについてあまりミゼアスは考えてこなかった。
質問をしてくる子供たちの目には、憧れと羨望の色があった。五花とはこの島の最高位であり、憧れでもあれば目標でもあるのだ。子供たちの目標が形となったのが、ミゼアスなのだ。
早く借金を返して帰ることを考え、結果として五花になっただけのミゼアスは、そういった意識が希薄だった。
そんなものよりも、本当に欲しかったものは別にある。五花のくせにと言われるたび、心の中でそう思って拳を握り締めてきた。
だが、今日の子供たちの眼差しを見ていると、それではいけないと思えてきた。
あの子たちの目標としてふさわしくありたい。売られてきた寄る辺ない子供がここまでなれるのだという希望を見せたい。
ミゼアスは初めて五花としてのありようを意識し始めた。
「……ごめんなさい」
帰り道、ヴァレンがぼそっと口を開いた。
特別授業を終えたミゼアスは、ヴァレンと一緒に帰り道を歩んでいるところだった。木立の並ぶ通りにはミゼアスとヴァレン以外の姿は見当たらない。
「俺のこと、心配してくれたんですよね。わざわざ学校まで……ごめんなさい」
しゅんとした様子でヴァレンは謝罪の言葉を繰り返す。
ミゼアスはやわらかな微笑みを浮かべて、ヴァレンの頭を撫でた。
「きみには落ち込んだ様子なんて似合わないよ。僕は上役としてまだまだ頼りないだろうけれど、ふさわしくなれるよう努力するよ。きみにも、一人で抱えてほしくない。顔に傷をつけるなんて、とんでもないことだよ。何があったのか、僕に話してくれないかな」
穏やかに話すと、ヴァレンが何かをこらえるように唇を歪めてミゼアスを見る。
「……怒りません?」
不安げにヴァレンが問いかけてくる。声がかすかに震えていた。
「怒らないよ」
ミゼアスは優しく答えて、ヴァレンをそっと抱きしめる。ヴァレンは一瞬、びくっと身を震わせたが、抗いはしなかった。
「……本当に、本当に?」
さらに確認してくるヴァレンに、ミゼアスは胸が締め付けられる。よほどつらい目にあったのだろうか。
「大丈夫だよ。怒らないから、話してみて」
ヴァレンの頭を撫でながらミゼアスは促す。
「実は……」
ようやくヴァレンが重い口を開く。ミゼアスはどのようなつらい話であっても、ヴァレンと一緒に乗り越えていこうと決意し、静かに耳を傾けた。
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