14 / 63
14.黒髪の子供
しおりを挟む
その日は怪我のため、ヴァレンは自室で療養ということになった。
いつもならおとなしくなどしていないヴァレンだが、ミゼアスを避けているようで、部屋から出てこない。
心を痛めつつ、普段どおり夜に客を迎えたミゼアスだったが、『顔色が悪いから、今日は休みなさい』と気遣われてしまい、さらに情けなくて自らに吐き気がした。
せっかくの厚意で早めに床に就いたものの、今度は寝付けない。ぐるぐると心配事が渦巻き、ミゼアスの眠りを阻む。朝方、わずかにうとうととしたが、結局まともに寝入ることはできなかった。
胃がきゅっと縮み上がって、食事も喉を通らない。
それなのに翌朝もヴァレンは素早く学校に行ってしまった。やはりミゼアスを避けているようだ。
このままでは駄目だと思い、ミゼアスはこっそりと学校に向かった。ミゼアスもほんの数年前まで通っていた学校だ。どこに何があるかくらい知っている。
ヴァレンがいる教室の近くで、ちょうどヴァレンの同級生を捕まえることができた。ヴァレンのことについて尋ねてみる。
「怪我はよくわかりませんけれど……ヴァレンにいろいろちょっかいを出しているのは、エアイールです」
「エアイール?」
「エアイールはミゼアス兄さん付きになりたかったみたいなんですけれど、でもヴァレンがなっちゃったから……。だから、ヴァレンのことが気に入らないみたいです」
ミゼアスはその子に飴玉を渡して礼を言った。
エアイールという名は初めて聞いたような気がする。しかし、最年少の五花付きになりたい者など珍しくもないだろう。ヴァレンはそのエアイールという子に嫌がらせをされているのだろうか。
まだ授業は始まっていない。そっとミゼアスは教室に近寄り、気づかれないように中の様子を伺った。
「あなた、いったい何をやっているのですか。本当に間抜けでどうしようもない方ですね」
刺々しい高飛車な声が聞こえてきた。口調は大人びているが、子供らしく澄んだ可愛らしい声だった。
「えー、だってー」
ヴァレンの声が聞こえる。駄々をこねているようだ。
「だってじゃありませんよ。ミゼアス兄さんがお困りだったでしょう。こんな怪我までして……ほら、包帯がずれていますよ」
見れば、黒髪の子供がヴァレンの包帯を直しているところだった。
「ありがとー、エアイール」
無邪気に礼を言うヴァレンの声が響く。
あの黒髪の子供がエアイールか。ミゼアスはそう思いながら、どこかで見たことがあるような気がするとひっかかっていた。
「勘違いしないでください。あなたのためじゃありませんから。あなたに変わったことがあったら、ミゼアス兄さんが心配するでしょう」
つんとそっぽを向きながらエアイールが言い捨てる。
思わずミゼアスは笑い出しそうになっていた。あからさまな照れ隠しが可愛い。昨日からずっと落ち込んでいた心が、わずかに癒される。
いつもならおとなしくなどしていないヴァレンだが、ミゼアスを避けているようで、部屋から出てこない。
心を痛めつつ、普段どおり夜に客を迎えたミゼアスだったが、『顔色が悪いから、今日は休みなさい』と気遣われてしまい、さらに情けなくて自らに吐き気がした。
せっかくの厚意で早めに床に就いたものの、今度は寝付けない。ぐるぐると心配事が渦巻き、ミゼアスの眠りを阻む。朝方、わずかにうとうととしたが、結局まともに寝入ることはできなかった。
胃がきゅっと縮み上がって、食事も喉を通らない。
それなのに翌朝もヴァレンは素早く学校に行ってしまった。やはりミゼアスを避けているようだ。
このままでは駄目だと思い、ミゼアスはこっそりと学校に向かった。ミゼアスもほんの数年前まで通っていた学校だ。どこに何があるかくらい知っている。
ヴァレンがいる教室の近くで、ちょうどヴァレンの同級生を捕まえることができた。ヴァレンのことについて尋ねてみる。
「怪我はよくわかりませんけれど……ヴァレンにいろいろちょっかいを出しているのは、エアイールです」
「エアイール?」
「エアイールはミゼアス兄さん付きになりたかったみたいなんですけれど、でもヴァレンがなっちゃったから……。だから、ヴァレンのことが気に入らないみたいです」
ミゼアスはその子に飴玉を渡して礼を言った。
エアイールという名は初めて聞いたような気がする。しかし、最年少の五花付きになりたい者など珍しくもないだろう。ヴァレンはそのエアイールという子に嫌がらせをされているのだろうか。
まだ授業は始まっていない。そっとミゼアスは教室に近寄り、気づかれないように中の様子を伺った。
「あなた、いったい何をやっているのですか。本当に間抜けでどうしようもない方ですね」
刺々しい高飛車な声が聞こえてきた。口調は大人びているが、子供らしく澄んだ可愛らしい声だった。
「えー、だってー」
ヴァレンの声が聞こえる。駄々をこねているようだ。
「だってじゃありませんよ。ミゼアス兄さんがお困りだったでしょう。こんな怪我までして……ほら、包帯がずれていますよ」
見れば、黒髪の子供がヴァレンの包帯を直しているところだった。
「ありがとー、エアイール」
無邪気に礼を言うヴァレンの声が響く。
あの黒髪の子供がエアイールか。ミゼアスはそう思いながら、どこかで見たことがあるような気がするとひっかかっていた。
「勘違いしないでください。あなたのためじゃありませんから。あなたに変わったことがあったら、ミゼアス兄さんが心配するでしょう」
つんとそっぽを向きながらエアイールが言い捨てる。
思わずミゼアスは笑い出しそうになっていた。あからさまな照れ隠しが可愛い。昨日からずっと落ち込んでいた心が、わずかに癒される。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる