13 / 63
13.突然の怪我
しおりを挟む
菓子の準備をしつつ、ミゼアスはヴァレンの帰りを待っていた。
嫌がらせをされているという話は気になっていたが、強く詰問するようなことは良くないだろう。お茶の時間にそれとなく話を聞きだしてみることにした。
好き嫌いのないヴァレンは、何でもよく食べる。子供らしく、特に菓子類は大好物だ。そこで、ヴァレンの好きな甘い菓子で心を緩ませようという作戦だ。
やがてヴァレンが帰ってきた。しかし、どうも様子がおかしい。いつもなら元気に声を張り上げて帰ってくるのだが、言葉もなくそっと自室に向かおうとしている。
そろそろ帰ってくる頃だろうと廊下に迎えに出たミゼアスは、妙にこそこそとしたヴァレンを見つけて声をかけた。
そして振り返ったヴァレンを見て、ミゼアスは絶句する。
ヴァレンの額に、血が滲んでいるのだ。
額全体が血にまみれているようにも見えた。とても痛々しい姿だ。
「ちょっ……ヴァレン、どうしたんだい!」
慌ててミゼアスはヴァレンに駆け寄る。近くでよく見てみれば、額全体の血は手でこすったために広がったらしい。出血自体はそれほど多くはないようだ。しかし、それでも怪我をしていることにかわりはない。
「えっと……別に、何でもありません。ちょっと転んだだけです」
歯切れの悪い答えがヴァレンから返ってくる。俯きがちで、どこかよそよそしい。
「ちょっと転んだって……」
はっとミゼアスは気づく。ヴァレンは嫌がらせをされているという話だった。もしや、それで怪我をしてしまったのではないだろうか。
この島では容姿というのはとても大切である。顔を傷つけるなど、もってのほかだ。
「もしかして、誰かにやられたのかい?」
おそるおそるミゼアスが尋ねると、ヴァレンは首を横に振った。
「いえ、本当に何でもありません。何でもないんです」
ヴァレンは必死に否定する。ますます怪しい。何かを隠そうとしているのは、ほぼ間違いないだろう。
「……ねえ、僕には言えないの?」
悲しくなりながら、ミゼアスは問いかける。
「……俺、医者のところに行ってきます!」
ミゼアスから視線をそらし、ヴァレンはそう言い捨てて逃げていった。
残されたミゼアスの心には虚しさとやりきれなさが渦巻く。
ここのところ、ようやくミゼアスの言うこともきくようになってきて、信頼関係を築けていると思っていたのだ。
しかし、それはミゼアスの思い込みだったらしい。
朝、わずかに灯った心の明かりが消えていくのを感じる。
悩み事ひとつ打ち明けてもらえないなんて、上役として失格だ。五花としても、上役としても、何ひとつ良いところなんてないではないか。ミゼアスは情けなさに俯き、唇を噛み締める。
ぽとり、と涙が床に零れ落ちた。
嫌がらせをされているという話は気になっていたが、強く詰問するようなことは良くないだろう。お茶の時間にそれとなく話を聞きだしてみることにした。
好き嫌いのないヴァレンは、何でもよく食べる。子供らしく、特に菓子類は大好物だ。そこで、ヴァレンの好きな甘い菓子で心を緩ませようという作戦だ。
やがてヴァレンが帰ってきた。しかし、どうも様子がおかしい。いつもなら元気に声を張り上げて帰ってくるのだが、言葉もなくそっと自室に向かおうとしている。
そろそろ帰ってくる頃だろうと廊下に迎えに出たミゼアスは、妙にこそこそとしたヴァレンを見つけて声をかけた。
そして振り返ったヴァレンを見て、ミゼアスは絶句する。
ヴァレンの額に、血が滲んでいるのだ。
額全体が血にまみれているようにも見えた。とても痛々しい姿だ。
「ちょっ……ヴァレン、どうしたんだい!」
慌ててミゼアスはヴァレンに駆け寄る。近くでよく見てみれば、額全体の血は手でこすったために広がったらしい。出血自体はそれほど多くはないようだ。しかし、それでも怪我をしていることにかわりはない。
「えっと……別に、何でもありません。ちょっと転んだだけです」
歯切れの悪い答えがヴァレンから返ってくる。俯きがちで、どこかよそよそしい。
「ちょっと転んだって……」
はっとミゼアスは気づく。ヴァレンは嫌がらせをされているという話だった。もしや、それで怪我をしてしまったのではないだろうか。
この島では容姿というのはとても大切である。顔を傷つけるなど、もってのほかだ。
「もしかして、誰かにやられたのかい?」
おそるおそるミゼアスが尋ねると、ヴァレンは首を横に振った。
「いえ、本当に何でもありません。何でもないんです」
ヴァレンは必死に否定する。ますます怪しい。何かを隠そうとしているのは、ほぼ間違いないだろう。
「……ねえ、僕には言えないの?」
悲しくなりながら、ミゼアスは問いかける。
「……俺、医者のところに行ってきます!」
ミゼアスから視線をそらし、ヴァレンはそう言い捨てて逃げていった。
残されたミゼアスの心には虚しさとやりきれなさが渦巻く。
ここのところ、ようやくミゼアスの言うこともきくようになってきて、信頼関係を築けていると思っていたのだ。
しかし、それはミゼアスの思い込みだったらしい。
朝、わずかに灯った心の明かりが消えていくのを感じる。
悩み事ひとつ打ち明けてもらえないなんて、上役として失格だ。五花としても、上役としても、何ひとつ良いところなんてないではないか。ミゼアスは情けなさに俯き、唇を噛み締める。
ぽとり、と涙が床に零れ落ちた。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
もうすぐ死ぬから、ビッチと思われても兄の恋人に抱いてもらいたい
カミヤルイ
BL
花影(かえい)病──肺の内部に花の形の腫瘍ができる病気で、原因は他者への強い思慕だと言われている。
主人公は花影症を患い、死の宣告を受けた。そして思った。
「ビッチと思われてもいいから、ずっと好きだった双子の兄の恋人で幼馴染に抱かれたい」と。
*受けは死にません。ハッピーエンドでごく軽いざまぁ要素があります。
*設定はゆるいです。さらりとお読みください。
*花影病は独自設定です。
*表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217 からプレゼントしていただきました✨
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる