きみを待つ

四葉 翠花

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13.突然の怪我

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 菓子の準備をしつつ、ミゼアスはヴァレンの帰りを待っていた。
 嫌がらせをされているという話は気になっていたが、強く詰問するようなことは良くないだろう。お茶の時間にそれとなく話を聞きだしてみることにした。
 好き嫌いのないヴァレンは、何でもよく食べる。子供らしく、特に菓子類は大好物だ。そこで、ヴァレンの好きな甘い菓子で心を緩ませようという作戦だ。

 やがてヴァレンが帰ってきた。しかし、どうも様子がおかしい。いつもなら元気に声を張り上げて帰ってくるのだが、言葉もなくそっと自室に向かおうとしている。
 そろそろ帰ってくる頃だろうと廊下に迎えに出たミゼアスは、妙にこそこそとしたヴァレンを見つけて声をかけた。
 そして振り返ったヴァレンを見て、ミゼアスは絶句する。
 ヴァレンの額に、血が滲んでいるのだ。
 額全体が血にまみれているようにも見えた。とても痛々しい姿だ。

「ちょっ……ヴァレン、どうしたんだい!」

 慌ててミゼアスはヴァレンに駆け寄る。近くでよく見てみれば、額全体の血は手でこすったために広がったらしい。出血自体はそれほど多くはないようだ。しかし、それでも怪我をしていることにかわりはない。

「えっと……別に、何でもありません。ちょっと転んだだけです」

 歯切れの悪い答えがヴァレンから返ってくる。俯きがちで、どこかよそよそしい。

「ちょっと転んだって……」

 はっとミゼアスは気づく。ヴァレンは嫌がらせをされているという話だった。もしや、それで怪我をしてしまったのではないだろうか。
 この島では容姿というのはとても大切である。顔を傷つけるなど、もってのほかだ。

「もしかして、誰かにやられたのかい?」

 おそるおそるミゼアスが尋ねると、ヴァレンは首を横に振った。

「いえ、本当に何でもありません。何でもないんです」

 ヴァレンは必死に否定する。ますます怪しい。何かを隠そうとしているのは、ほぼ間違いないだろう。

「……ねえ、僕には言えないの?」

 悲しくなりながら、ミゼアスは問いかける。

「……俺、医者のところに行ってきます!」

 ミゼアスから視線をそらし、ヴァレンはそう言い捨てて逃げていった。
 残されたミゼアスの心には虚しさとやりきれなさが渦巻く。
 ここのところ、ようやくミゼアスの言うこともきくようになってきて、信頼関係を築けていると思っていたのだ。
 しかし、それはミゼアスの思い込みだったらしい。

 朝、わずかに灯った心の明かりが消えていくのを感じる。
 悩み事ひとつ打ち明けてもらえないなんて、上役として失格だ。五花としても、上役としても、何ひとつ良いところなんてないではないか。ミゼアスは情けなさに俯き、唇を噛み締める。
 ぽとり、と涙が床に零れ落ちた。
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本編『不夜島の少年
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