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12.わずかな明かり
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「そうそう、思い出した。この間、ミゼアス付きからはずした子がいるだろう?」
「ああ……いたね」
それなりに優秀な子だからと付けられたのだが、どうもミゼアスは気に入らなかった。やたらとミゼアスに対し、おべっかを使うのだ。それも口先だけで、実は裏でミゼアスの悪口を言っていた。
さらにミゼアスという五花付きであることを鼻にかけて、他の子たちをいじめていたといたことがわかり、ミゼアスは自分付きからはずしたのだ。
「ネヴィルっていう名前だったっけ。その子、それからガルト兄さんが拾ったんだよ。仲睦まじくやっているようだよ」
「ふうん……そう」
それはお互い、気の合うことだろう。あの子の性格上、ミゼアスのことを恨みに思っているのはほぼ間違いがない。
ここのところヴァレンにかかりきりで、いつも以上に他人が何をしているかなど考えている余裕もなかった。
「その子かどうかわからないけれど……あのヴァレンって子、嫌がらせをされているみたいだよ」
「え……?」
ミゼアスは驚きの声を漏らす。いつもヴァレンは明るく、つい先ほどだって元気に学校へと向かったばかりだ。
そのような仕打ちをされているなど、想像もつかない。
「物を隠されたり、悪口を言われたりしているっていう話だよ。ただ、本人はまったく気にしていないみたいだけれどね」
そういえば、ヴァレンは何も持たずに学校へと向かっていた。それは物を隠されるからなのだろうか。
しかし、一度読んだものを全て覚えてしまうヴァレンなら、たとえ教科書を隠されたところで困ることはないのだろう。
「今のところ問題はないようだけど、ちょっと気をつけてあげたほうがいいと思うよ。俺も少し見ておくからさ」
「……どうして、僕にそんなことを言うんだい? 僕に味方なんてすると、きみだってのけ者にされるかもしれないよ」
軽く眉根を寄せてミゼアスは問う。
いくら同期とはいえ、今までほとんど接点もなかったのだ。ミゼアスの味方をする理由など思い浮かばない。
「うん、ちょっとね……今の雰囲気、なんだか嫌なんだよ。変な意地の張り合いとか、足の引っ張り合いしているだろう。どうにか変えるきっかけを作りたいんだけれど、俺じゃあなかなかうまくいかない。ミゼアスに味方することがせいぜいなんだよ」
情けないけれどね、と少年は自嘲の笑みを浮かべる。
「……そう」
「ミゼアスは五花だろう? ここで一番偉いのはミゼアスなんだから、もっと堂々としていればいいのに」
「うん……」
先日、マリオンにも五花にふさわしい振る舞いをしろと言われた。やはり自分には五花としての風格などないのだろう。ミゼアスは俯く。
上の地位は望んだが、それは落ちぶれずに早く借金を返して帰るためだ。帰る場所がなくなった今、その地位も宙に浮いてしまった。
地位そのものが目的だったわけではない。本当に欲しかったものは、別にある。
「まあミゼアスは俺と同い年だし。俺が偉そうなことは言えないけれど……ミゼアスはもっと、ふてぶてしくなっていいと思うよ。もし俺に何かできることがあったら、力になるからさ」
そう言って少年はミゼアスに笑いかける。
「うん……ありがとう」
ミゼアスの心に、わずかな温かい明かりが灯っていく。ずっと自分は一人だと思っていたが、こうして気にかけてくれている者もいるのだ。
ヴァレンが嫌がらせをされているという話に不安はあったが、帰ってきたらそれとなく話を聞いてみることにしよう。そう決めて、ミゼアスはかすかに灯った明かりが消えないよう、そっと胸を押さえた。
「ああ……いたね」
それなりに優秀な子だからと付けられたのだが、どうもミゼアスは気に入らなかった。やたらとミゼアスに対し、おべっかを使うのだ。それも口先だけで、実は裏でミゼアスの悪口を言っていた。
さらにミゼアスという五花付きであることを鼻にかけて、他の子たちをいじめていたといたことがわかり、ミゼアスは自分付きからはずしたのだ。
「ネヴィルっていう名前だったっけ。その子、それからガルト兄さんが拾ったんだよ。仲睦まじくやっているようだよ」
「ふうん……そう」
それはお互い、気の合うことだろう。あの子の性格上、ミゼアスのことを恨みに思っているのはほぼ間違いがない。
ここのところヴァレンにかかりきりで、いつも以上に他人が何をしているかなど考えている余裕もなかった。
「その子かどうかわからないけれど……あのヴァレンって子、嫌がらせをされているみたいだよ」
「え……?」
ミゼアスは驚きの声を漏らす。いつもヴァレンは明るく、つい先ほどだって元気に学校へと向かったばかりだ。
そのような仕打ちをされているなど、想像もつかない。
「物を隠されたり、悪口を言われたりしているっていう話だよ。ただ、本人はまったく気にしていないみたいだけれどね」
そういえば、ヴァレンは何も持たずに学校へと向かっていた。それは物を隠されるからなのだろうか。
しかし、一度読んだものを全て覚えてしまうヴァレンなら、たとえ教科書を隠されたところで困ることはないのだろう。
「今のところ問題はないようだけど、ちょっと気をつけてあげたほうがいいと思うよ。俺も少し見ておくからさ」
「……どうして、僕にそんなことを言うんだい? 僕に味方なんてすると、きみだってのけ者にされるかもしれないよ」
軽く眉根を寄せてミゼアスは問う。
いくら同期とはいえ、今までほとんど接点もなかったのだ。ミゼアスの味方をする理由など思い浮かばない。
「うん、ちょっとね……今の雰囲気、なんだか嫌なんだよ。変な意地の張り合いとか、足の引っ張り合いしているだろう。どうにか変えるきっかけを作りたいんだけれど、俺じゃあなかなかうまくいかない。ミゼアスに味方することがせいぜいなんだよ」
情けないけれどね、と少年は自嘲の笑みを浮かべる。
「……そう」
「ミゼアスは五花だろう? ここで一番偉いのはミゼアスなんだから、もっと堂々としていればいいのに」
「うん……」
先日、マリオンにも五花にふさわしい振る舞いをしろと言われた。やはり自分には五花としての風格などないのだろう。ミゼアスは俯く。
上の地位は望んだが、それは落ちぶれずに早く借金を返して帰るためだ。帰る場所がなくなった今、その地位も宙に浮いてしまった。
地位そのものが目的だったわけではない。本当に欲しかったものは、別にある。
「まあミゼアスは俺と同い年だし。俺が偉そうなことは言えないけれど……ミゼアスはもっと、ふてぶてしくなっていいと思うよ。もし俺に何かできることがあったら、力になるからさ」
そう言って少年はミゼアスに笑いかける。
「うん……ありがとう」
ミゼアスの心に、わずかな温かい明かりが灯っていく。ずっと自分は一人だと思っていたが、こうして気にかけてくれている者もいるのだ。
ヴァレンが嫌がらせをされているという話に不安はあったが、帰ってきたらそれとなく話を聞いてみることにしよう。そう決めて、ミゼアスはかすかに灯った明かりが消えないよう、そっと胸を押さえた。
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