きみを待つ

四葉 翠花

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11.先のこと

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「ミゼアス? こんなところでぼーっとして、育児疲れか?」

 廊下で立ちすくんでいると、声をかけられた。見れば、ミゼアスと同期の白花の少年だった。お互いに存在を知ってはいるが、あまり話したことはない相手だ。

「……そうだね。いろいろ、疲れているよ」

 大きく息を吐き出しながら、ミゼアスは答える。

「あの子、ヴァレンだっけ? にぎやかで、楽しそうじゃないか」

「……いつでも、代わってあげるよ。あの子をきちんと躾けることができたら、僕はひれ伏して崇め奉るね。何でも言うことをきくよ。どうだい?」

「遠慮する。無理」

 きっぱりと拒絶される。

「……どうして、どいつもこいつも……」

 ぶつぶつとミゼアスが呪いの言葉を吐き出すと、くすりと笑う声がした。

「でも、最近のミゼアスは丸くなったと思うよ。前だったら、何ていうか……近寄りづらくてなかなか声もかけられなかったし。今だったら、話しかけたら返事くらいしてくれるかなーって感じがする」

「……そんなにとっつきにくかったかな」

「うん。壁を作っているなって思っていたよ。談話室にいるのを見かけたことだってないし」

「確かに、あまり人付き合いはしてこなかったね」

 いつでもミゼアスは借金を返すことばかりを考えていた。価値を高めるため、己を磨くことには熱心だったが、周囲の存在に気を使った覚えはない。
 借金を返し終わった後は、村がなくなったという知らせで自暴自棄になっていたので、これも人付き合いなどしていなかった。

「まあ、談話室に行くのはおすすめしないけれどね。ガルト兄さん派の連中が結構いるし。それにマリオン兄さん派の連中だって、ミゼアスのことを好いているわけじゃないもんな」

「……きみは、どっち派なんだい?」

「俺? 俺はどっちでもないよ。正直言って、白花なんて向いていないと思っているし。さっさと借金を返して、教師にでもなりたいなぁ」

 少年は軽く宙を仰いで吐息を漏らす。

「そうか。教師……それもいいかもね」

 ふとミゼアスは教師になった自分を想像してみる。
 借金を返した後、白花を引退しても島に残る者もいる。そういった者たちは商売を始めたり、教師になったりと様々だ。
 どうせ帰る場所などないのだ。この島でそういった職に就くのもよいかと思えた。それならば男たちに抱かれて浅ましい姿を晒さずともすむ。
 しかし、実際には五花になったばかりでもあれば、稼ぎ頭でもあるミゼアスのことを、そう簡単に離してくれるはずもないだろう。ミゼアスはかすかに浮かんだ希望を振り払う。
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本編『不夜島の少年
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