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09.未知の生き物
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そこまで考え、ミゼアスははっとする。過去の苦い思いに引きずり込まれそうになっていた。
それよりも今はヴァレンだ。ヴァレンの助けにならなくてはならない。過去の思いを振り払い、目を開ける。
目の前のヴァレンはうずくまっていた。かわいそうに、とミゼアスは衝動的にヴァレンを抱きしめる。
するとヴァレンの身体がびくっと大きく跳ねた。つい、ミゼアスは腕を離してしまう。
どうしたのかと思えば、ヴァレンはゆっくりと顔を上げた。その顔は泣きそうに、情けなく歪んでいた。
「……無理です」
ぼそっとヴァレンは呟く。悲しげな声だった。明るく、迷惑なほどに元気なヴァレンの声とは思えない。
「うん……気持ちはわかるよ……でもね……」
「咥えるなんて無理です! 届きません!」
ミゼアスの言葉を遮るように、ヴァレンが叫ぶ。
「……はい?」
「俺、身体はそこそこ柔らかいほうだと思っていましたけれど、届きません。毎日、柔軟体操をしたら届くようになりますか?」
真剣な様子でヴァレンが尋ねてくる。眉根を寄せ、唇を歪ませた姿は痛々しい。しかし、ミゼアスの考えていることとは別のことで悩んでいるようだ。
「……別に、自分のものは咥えなくてもいいよ……。人のものを咥えるんだよ……」
「なんだー、良かった。それなら大丈夫です!」
ヴァレンは途端に元気な様子になり、笑顔を見せた。まぶしい笑顔にミゼアスはついついめまいを覚えそうになる。
「いや……人のものを咥えることに抵抗はないのかい?」
「えーと……美味しいですか?」
「…………」
うずくまっていたのではなく、自らのものを咥えることができるか試していたらしい。
しかも何を気にするかと思えば、味だ。ミゼアスは唖然として、言葉が出てこなかった。
「美味しいですか?」
「……いや、別に……」
「えー、美味しくないんですか。がっかりです」
「……蜂蜜でもまぶせば、美味しくなるんじゃないかな……」
「なるほど! さすがミゼアス兄さん、頭が良いです!」
「……良かったね」
もうがっくりだ。こんなことで頭が良いと言われても、かえって馬鹿らしい。
「じゃあ俺、頑張って毎日柔軟体操します!」
「……そう。頑張ってね……」
自らのものに蜂蜜をまぶして咥える気なのか。もはや何も言う気になれない。
この子はミゼアスが出会ったこともない、未知の生き物のようだった。
それよりも今はヴァレンだ。ヴァレンの助けにならなくてはならない。過去の思いを振り払い、目を開ける。
目の前のヴァレンはうずくまっていた。かわいそうに、とミゼアスは衝動的にヴァレンを抱きしめる。
するとヴァレンの身体がびくっと大きく跳ねた。つい、ミゼアスは腕を離してしまう。
どうしたのかと思えば、ヴァレンはゆっくりと顔を上げた。その顔は泣きそうに、情けなく歪んでいた。
「……無理です」
ぼそっとヴァレンは呟く。悲しげな声だった。明るく、迷惑なほどに元気なヴァレンの声とは思えない。
「うん……気持ちはわかるよ……でもね……」
「咥えるなんて無理です! 届きません!」
ミゼアスの言葉を遮るように、ヴァレンが叫ぶ。
「……はい?」
「俺、身体はそこそこ柔らかいほうだと思っていましたけれど、届きません。毎日、柔軟体操をしたら届くようになりますか?」
真剣な様子でヴァレンが尋ねてくる。眉根を寄せ、唇を歪ませた姿は痛々しい。しかし、ミゼアスの考えていることとは別のことで悩んでいるようだ。
「……別に、自分のものは咥えなくてもいいよ……。人のものを咥えるんだよ……」
「なんだー、良かった。それなら大丈夫です!」
ヴァレンは途端に元気な様子になり、笑顔を見せた。まぶしい笑顔にミゼアスはついついめまいを覚えそうになる。
「いや……人のものを咥えることに抵抗はないのかい?」
「えーと……美味しいですか?」
「…………」
うずくまっていたのではなく、自らのものを咥えることができるか試していたらしい。
しかも何を気にするかと思えば、味だ。ミゼアスは唖然として、言葉が出てこなかった。
「美味しいですか?」
「……いや、別に……」
「えー、美味しくないんですか。がっかりです」
「……蜂蜜でもまぶせば、美味しくなるんじゃないかな……」
「なるほど! さすがミゼアス兄さん、頭が良いです!」
「……良かったね」
もうがっくりだ。こんなことで頭が良いと言われても、かえって馬鹿らしい。
「じゃあ俺、頑張って毎日柔軟体操します!」
「……そう。頑張ってね……」
自らのものに蜂蜜をまぶして咥える気なのか。もはや何も言う気になれない。
この子はミゼアスが出会ったこともない、未知の生き物のようだった。
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