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06.馬鹿
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「初めまして! ヴァレンでっす!」
びしっと片手を上げて子供が挨拶をする。
赤味がかった金色の髪と、海のような青い瞳を持つ、愛らしい顔立ちをした子だった。手には見習いの証である葉と蔓の模様が刻まれている。
年齢は九歳と聞いていたが、それよりも幼く見える。悪戯っぽい輝きを持つ瞳は、きょろきょろとして落ち着きがない。
「……初めまして。僕はミゼアス」
やや面食らいながらミゼアスも名乗る。
ミゼアスの部屋にて例の天才児とご対面となったのだが、やたらと元気な子だった。どうもミゼアスの想像とは違う。
いや、しかし、もしかしたら日々の苦難を悟らせないよう元気に振る舞う、健気な子なのかもしれない。天才児だというのだ、それくらいのことをしてもおかしくはないだろう。
「ええと、ヴァレンだね。これからきみは僕付きになるわけだけれど……って、あれ?」
気を取り直してミゼアスは話し出すが、目の前からヴァレンの姿が消えている。何が起こったのだろうと見回してみると、ヴァレンは勝手に部屋を探索していた。
「うっわー、この椅子ふわふわしている! 気持ちいいー」
ミゼアスがあっけにとられていると、ヴァレンは長椅子の上でごろごろと転がり始めた。端まで転がって床に落ちると、今度はそのまま床を転がりながら移動していく。
象牙色をした毛足の長い絨毯まで転がっていくと、その上でさらに転がって身体を擦り付ける。
「絨毯もふわふわー! 美味しそう!」
さらにとんでもないことを言ったかと思うと、うつ伏せの状態で口をもごもごと動かし始めた。
ミゼアスは慌てて絨毯まで駆け寄り、ヴァレンを絨毯から引き剥がす。ヴァレンはあっさりと持ち上がったが、絨毯は毛足がいくらかまとまって湿っていた。
「……美味しくない」
引き剥がされたヴァレンは、ぼそっと悲しげに呟いた。
「当たり前だろう! 汚いから、口をすすいできなさい。いや、そもそもどうして絨毯なんて食べようとするんだい!」
「美味しそうだったからです!」
「……普通、絨毯は食べるものじゃないってわかるだろう」
「でも、美味しいかもしれません!」
ミゼアスにつかまれたまま、ヴァレンは手足をじたばたと動かしながら答える。
その様子を見ながら、ミゼアスは確信した。
――この子は、馬鹿だ。
びしっと片手を上げて子供が挨拶をする。
赤味がかった金色の髪と、海のような青い瞳を持つ、愛らしい顔立ちをした子だった。手には見習いの証である葉と蔓の模様が刻まれている。
年齢は九歳と聞いていたが、それよりも幼く見える。悪戯っぽい輝きを持つ瞳は、きょろきょろとして落ち着きがない。
「……初めまして。僕はミゼアス」
やや面食らいながらミゼアスも名乗る。
ミゼアスの部屋にて例の天才児とご対面となったのだが、やたらと元気な子だった。どうもミゼアスの想像とは違う。
いや、しかし、もしかしたら日々の苦難を悟らせないよう元気に振る舞う、健気な子なのかもしれない。天才児だというのだ、それくらいのことをしてもおかしくはないだろう。
「ええと、ヴァレンだね。これからきみは僕付きになるわけだけれど……って、あれ?」
気を取り直してミゼアスは話し出すが、目の前からヴァレンの姿が消えている。何が起こったのだろうと見回してみると、ヴァレンは勝手に部屋を探索していた。
「うっわー、この椅子ふわふわしている! 気持ちいいー」
ミゼアスがあっけにとられていると、ヴァレンは長椅子の上でごろごろと転がり始めた。端まで転がって床に落ちると、今度はそのまま床を転がりながら移動していく。
象牙色をした毛足の長い絨毯まで転がっていくと、その上でさらに転がって身体を擦り付ける。
「絨毯もふわふわー! 美味しそう!」
さらにとんでもないことを言ったかと思うと、うつ伏せの状態で口をもごもごと動かし始めた。
ミゼアスは慌てて絨毯まで駆け寄り、ヴァレンを絨毯から引き剥がす。ヴァレンはあっさりと持ち上がったが、絨毯は毛足がいくらかまとまって湿っていた。
「……美味しくない」
引き剥がされたヴァレンは、ぼそっと悲しげに呟いた。
「当たり前だろう! 汚いから、口をすすいできなさい。いや、そもそもどうして絨毯なんて食べようとするんだい!」
「美味しそうだったからです!」
「……普通、絨毯は食べるものじゃないってわかるだろう」
「でも、美味しいかもしれません!」
ミゼアスにつかまれたまま、ヴァレンは手足をじたばたと動かしながら答える。
その様子を見ながら、ミゼアスは確信した。
――この子は、馬鹿だ。
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