きみを待つ

四葉 翠花

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05.天才児ヴァレン

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 あるとき、ミゼアスは娼館主から呼び出された。
 ミゼアス付きの見習いとして預かってほしい子がいるというのだ。

「……もう、面倒なのは嫌だよ。僕の悪口を影で言うくせに、五花付き見習いだと威張って他の子をいじめるような奴はもうごめんだ」

 吐き捨てるようにミゼアスは言う。

「いや、今度の子は違う。歴史だろうが文学だろうが、一度学べば全て覚えて、試験は満点以外とったことがないような天才児だ」

「へえ……それは凄いね。基礎課程修了までの最短記録を更新するんじゃない?」

 見習いには学校に通う義務がある。貴族や裕福な客の相手をするため、教養を身につける必要があるのだ。十二歳になるまでに、最低でも基礎課程の修了が必須とされる。
 現在の最短記録はミゼアスが保持している。しかし、そのミゼアスでも全て満点とはいかなかったはずだ。

「それが、一つだけ欠点がある。花月琴の才能だけが致命的に欠けているんだ。それで、基礎課程を終えることができないでいる。だから花月琴の名手に預けたいんだ」

「ふうん……」

 ミゼアスは花月琴の名手として名高い。すでに当代一とすら呼ばれるほどだ。この島の五花は全員が花月琴の名手だが、その中でもミゼアスは随一である。
 顎を指でなぞりながら、ミゼアスは娼館主の話について考えてみる。
 天才児といった。おそらくは、物静かで思慮深い子なのだろう。もしかしたら、妬まれていじめられているかもしれない。

 ミゼアスも学校に通っている頃から妬まれてはいたようだったが、ほとんど表面化はしなかった。
 だが、その子はおそらくミゼアスよりも優秀だ。それならば、今のミゼアスに対するような嫌がらせを受けているかもしれない。
 もしかしたら、思いを共有できるかもしれない。少なくとも、下からキイキイ騒ぐような連中とは違うだろう。少しは気が紛れると思えた。

「……わかった。僕が預かるよ。その子の名前は?」

「ヴァレン。裕福な商家の息子だったが、事業に失敗して売られてきたそうだ。もう、この子をどうにかできるのはミゼアスしかいない。よろしく頼む」

 苦渋の滲む声で娼館主はミゼアスに託す。
 やはり、いじめられてでもいるのだろう。花月琴の才能がないことを徹底的に貶められているのかもしれない。
 まだ名前を聞いたばかりだが、ヴァレンという子のことを思うと、ミゼアスは胸が締め付けられるようだった。自分にできる限りのことをしてあげよう。ミゼアスはそう決意した。
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本編『不夜島の少年
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