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03.白花たち
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「淫乱の五花様のお出ましだ」
ミゼアスが食堂に行くと、野次る声が響いた。
またか、とミゼアスはそっと深い息を吐いた。最年少で五花となってから、妬みややっかみの声を浴びせられることが日常となっている。
もはや相手をするのも馬鹿らしい。ミゼアスは無視して、食事を始める。
「毎日、毎日、熱心に客を取って、ご立派だよなー。五花になっても、場末の男娼のような貪欲さを忘れないなんて、なかなかできることじゃないよなぁ」
嘲りを多分に含んだ声が響く。
その声の主をちらりとミゼアスは見た。燃えるような赤い髪が目に入ってくる。やはりこいつか、とミゼアスは内心で盛大なため息をつく。
四花のガルトだ。ミゼアスが頭角を現すまではこの館で一、二を争う稼ぎ頭だった白花で、今でも館内では中心的存在の一人である。
このガルトと数人の取り巻きたちはミゼアスの姿を見かけるたび、嫌味を浴びせかけてくるのだ。いつもは一言二言なのだが、今日はやたらと長ったらしい。どんどんしつこくなってきているようだ。
積極的に加わらないにせよ、他の白花たちの反応も見て見ぬふりである。もともとミゼアスには友人と呼べるような存在はいない。
見習いの頃から将来の五花候補として扱われ、他の白花たちとは一線を画してきたのだ。
ミゼアスはこの館内でも浮いた存在だった。
それでもガルトたちの嫌がらせは口先だけである。嫌味や嘲りさえ無視していれば、他にほとんど害はない。
年少者でおとなしくしているとはいえ、ミゼアスは最高位の五花だ。本気になれば様々な特権を行使できる。さらにミゼアスの後ろ盾には、宰相を務めたこともある大貴族のウインシェルド侯爵がいる。
妬んでいる輩も、下手に手を出せば自分たちが危うくなることを知っているのだ。
そのため、ミゼアスを本気で怒らせない程度に、ちまちまと鬱屈した感情をぶつけるというやり方しかできないのだ。稚拙すぎて、ミゼアスは呆れることしかできない。まともに相手をする気にもなれない。
とはいえ、いくら実際に害を及ぼさないとはいっても、悪意を向けられれば気分がよいはずがない。食事に嫌味の味付けが加わって美味しいと思える者もいないだろう。
ミゼアスは今日も、うんざりとしていた。
「楽しくない言葉を聞きながらの食事は、美味しいものではありませんね。静かにして頂けませんか」
凛とした声が響いた。ミゼアスは驚きながら声の主を見る。
四花のマリオンだった。ガルトとは同期で、互いに館内での頂点争いをしていた仲でもあるという。
ミゼアスだけではなく、他の白花たちも驚いている様子だった。この館内での中心的存在といえば、ガルトとマリオンなのだ。それぞれに派閥のようなものもある。
「……っ」
ガルトも意外だったようで、唇を噛みながらマリオンを睨みつける。取り巻きたちも口をつぐみ、落ち着きなく二人を交互に見比べる。しかしマリオンは気にした様子もなく、優雅に食事を取り続けていた。
食堂には妙な沈黙が流れる。
やがてちらほらと食事を再開する音が聞こえてくる頃、ミゼアスはそっと料理に手をつけた。
ミゼアスが食堂に行くと、野次る声が響いた。
またか、とミゼアスはそっと深い息を吐いた。最年少で五花となってから、妬みややっかみの声を浴びせられることが日常となっている。
もはや相手をするのも馬鹿らしい。ミゼアスは無視して、食事を始める。
「毎日、毎日、熱心に客を取って、ご立派だよなー。五花になっても、場末の男娼のような貪欲さを忘れないなんて、なかなかできることじゃないよなぁ」
嘲りを多分に含んだ声が響く。
その声の主をちらりとミゼアスは見た。燃えるような赤い髪が目に入ってくる。やはりこいつか、とミゼアスは内心で盛大なため息をつく。
四花のガルトだ。ミゼアスが頭角を現すまではこの館で一、二を争う稼ぎ頭だった白花で、今でも館内では中心的存在の一人である。
このガルトと数人の取り巻きたちはミゼアスの姿を見かけるたび、嫌味を浴びせかけてくるのだ。いつもは一言二言なのだが、今日はやたらと長ったらしい。どんどんしつこくなってきているようだ。
積極的に加わらないにせよ、他の白花たちの反応も見て見ぬふりである。もともとミゼアスには友人と呼べるような存在はいない。
見習いの頃から将来の五花候補として扱われ、他の白花たちとは一線を画してきたのだ。
ミゼアスはこの館内でも浮いた存在だった。
それでもガルトたちの嫌がらせは口先だけである。嫌味や嘲りさえ無視していれば、他にほとんど害はない。
年少者でおとなしくしているとはいえ、ミゼアスは最高位の五花だ。本気になれば様々な特権を行使できる。さらにミゼアスの後ろ盾には、宰相を務めたこともある大貴族のウインシェルド侯爵がいる。
妬んでいる輩も、下手に手を出せば自分たちが危うくなることを知っているのだ。
そのため、ミゼアスを本気で怒らせない程度に、ちまちまと鬱屈した感情をぶつけるというやり方しかできないのだ。稚拙すぎて、ミゼアスは呆れることしかできない。まともに相手をする気にもなれない。
とはいえ、いくら実際に害を及ぼさないとはいっても、悪意を向けられれば気分がよいはずがない。食事に嫌味の味付けが加わって美味しいと思える者もいないだろう。
ミゼアスは今日も、うんざりとしていた。
「楽しくない言葉を聞きながらの食事は、美味しいものではありませんね。静かにして頂けませんか」
凛とした声が響いた。ミゼアスは驚きながら声の主を見る。
四花のマリオンだった。ガルトとは同期で、互いに館内での頂点争いをしていた仲でもあるという。
ミゼアスだけではなく、他の白花たちも驚いている様子だった。この館内での中心的存在といえば、ガルトとマリオンなのだ。それぞれに派閥のようなものもある。
「……っ」
ガルトも意外だったようで、唇を噛みながらマリオンを睨みつける。取り巻きたちも口をつぐみ、落ち着きなく二人を交互に見比べる。しかしマリオンは気にした様子もなく、優雅に食事を取り続けていた。
食堂には妙な沈黙が流れる。
やがてちらほらと食事を再開する音が聞こえてくる頃、ミゼアスはそっと料理に手をつけた。
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