不夜島の少年 小話集

ヴァレンの目標 ２

「花月琴以外、すべて満点か。すごいね……良い意味でも、悪い意味でも」

　試験の結果を聞き、ミゼアスはわずかな頭痛を覚えながら呟く。
　教養科目で満点を取るのは、かなり難しい。ミゼアスが見習いだった頃も、すべて満点など取ったことはなかった。そこは感嘆すべきところだ。

　しかし、一般的にはもっとも満点を取りやすいのは花月琴である。技術と音との両方が採点基準だが、学校の試験ではある一定以上の技量があれば満点は容易いのだ。
　見習いの中でも上位に位置するような者は、試験の最中に失敗さえしなければほとんどが満点である。
　ところが、ヴァレンは技術に問題はないものの、音が壊滅的との結果だった。

　ヴァレンは致命的に花月琴の才能が欠けている。
　かつて白花の先輩だったマリオンが、ヴァレンに薬を盛ったことがあった。問題だらけの行動でミゼアスも許すことはできないが、実際にマリオンは似たような状況で花月琴の才能を開花させたのだという。

　ミゼアスは別の方法を見つけてみせるとマリオンを否定したが、未だにその方法は見つけられずにいる。
　最終的には、もしかしたらマリオンと同じような手段を取る必要に迫られるのかもしれない。

　しかし、最終手段はまだしまっておくべきだ。
　まだヴァレンが店に出るようになるまで時間がある。ヴァレンを預かった当初より、少しは音もましになってきているのだ。

　一度本を読めばすべて覚え、理解してしまうヴァレンは、勉強に時間を割く必要がない。その分を自由時間にして、いろいろなものと触れ合う情操教育を行っている。
　これはある程度の効果をあげているようだったが、ヴァレンは変なものとばかり触れ合う傾向があるという問題があった。