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ヴァレンの目標 1
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「エアイール、首席おめでとう……って、どうしてそんな、この世の恨みを一身に背負ったような顔をしているんだい?」
見習いたちの試験結果が発表された直後の休憩時間、ネヴィルはいつものようにヴァレンとエアイールのいる教室へとやってきた。
首席を獲得したエアイールに何気なく声をかけたのだが、その顔には喜びや誇らしそうな様子は一切伺えず、ネヴィルはやや怯む。
「……何がおめでたいのですか。科目ごとに見ていけば、わたくしがヴァレンに勝っているのは花月琴だけですよ。たったひとつしか勝っていないのに、何が首席ですか」
苦虫を噛み潰したように顔を歪め、エアイールは吐き捨てる。
「そうは言っても……総合点ではエアイールのほうが上なんだからさ。いくらヴァレンが花月琴以外はすべて満点でも」
情念を好む楽器である花月琴に嫌われている能天気なヴァレンは、どうしても綺麗な音が出せない。技術面に問題はないのだが、音をうまく出せないために点数が低くなってしまうのだ。
反対に情念どろどろ渦巻くエアイールは花月琴との相性が抜群で、今回も難なく満点を獲得していた。
「どう考えても、花月琴が一番点数を取りやすいでしょう。ネヴィル、あなたも確か満点でしたよね」
「うん、まあ……そうだけれど……確かに、他の科目のほうが難しいとは僕も思うけれどさあ」
「それなのに、難しい科目で満点を叩き出した当人はアレですよ」
忌々しそうにエアイールが壁を指差す。そこには、何もない壁によじ登ろうとしては途中で落ちて、また挑戦するといった行動を繰り返すヴァレンの姿があった。
「ああ……前より大分、上のほうまで登れるようになったじゃないか」
「……そういう問題ですか」
のんきに呟くネヴィルと、ため息を漏らすエアイール。
「何ていうかさ、やりきれない気持ちはわかるよ。でも、あれがヴァレンなんだから仕方がないよ。僕やきみのようにねちねちとしていて、恨み言ばかり呟いているようなヴァレンなんて想像できる? そうなったら、きっと花月琴の点数も上がるだろうけど」
「……確かに、それは嫌ですね」
「だろう? 僕も前はヴァレンに対していろいろと思うことがあったけど……結局、自分がつらくなるだけだったしね。きみは正当に首席を獲得しているんだし、そこは素直に喜んでいいと思うよ」
見習いたちの試験結果が発表された直後の休憩時間、ネヴィルはいつものようにヴァレンとエアイールのいる教室へとやってきた。
首席を獲得したエアイールに何気なく声をかけたのだが、その顔には喜びや誇らしそうな様子は一切伺えず、ネヴィルはやや怯む。
「……何がおめでたいのですか。科目ごとに見ていけば、わたくしがヴァレンに勝っているのは花月琴だけですよ。たったひとつしか勝っていないのに、何が首席ですか」
苦虫を噛み潰したように顔を歪め、エアイールは吐き捨てる。
「そうは言っても……総合点ではエアイールのほうが上なんだからさ。いくらヴァレンが花月琴以外はすべて満点でも」
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「どう考えても、花月琴が一番点数を取りやすいでしょう。ネヴィル、あなたも確か満点でしたよね」
「うん、まあ……そうだけれど……確かに、他の科目のほうが難しいとは僕も思うけれどさあ」
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