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恋人未満
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ヴァレンが物憂げに窓の外を眺めている。お茶を運んできたエアイールは、ヴァレンらしからぬ表情に軽く首を傾げた。
「どうかしたのですか?」
「いや……あの木の上に鳥が止まっているだろ」
窓から視線をはずさず、ヴァレンは答える。言われてエアイールも眺めてみれば、細い木の枝に一羽の鳥が止まっていた。
「はあ、それが?」
「ここからの距離は範囲内だ。跳べる。でも、あの木の枝は細すぎる。俺の体重は支えきれないだろう」
「……何故、跳ぼうとするのですか」
ついエアイールは呆れた声を漏らしてしまうが、ヴァレンは気にせず続ける。
「ならば、幹に張り付くしかない。しかし、ここでも問題がある。幹に張り付くことができたとして、その衝撃で鳥は逃げてしまうだろう。打つ手がないという結果しか導き出せないんだ」
「……あなたの頭の中身が問題ですし、あなた自体がもう打つ手がありませんね」
「昔だったら何も考えずに飛び出していたかもしれないけれど、俺もだんだん落ち着いて分別っていうのが身についてきたからさ。可能性はほぼ無いに等しいってわかるんだよな。そう、わかっているんだ……」
エアイールの嫌味が聞こえているのかどうか、ヴァレンは窓から視線をはずして深く息を吐いた。
「でも、もしかしたら奇跡が起こるかもって思っちゃうんだよな!」
ろくでもない宣言とともにヴァレンは立ち上がる。
エアイールは一瞬、虚を突かれたものの、突拍子も無いヴァレンの行動には慣れきっている。ヴァレンが窓に到達するよりも早く、ヴァレンにしがみついて動きを止めさせることに成功した。
「いいかげんにしてください! あなたはまったく……小さい頃から変わっていませんね」
「なんだよー、やってみなくちゃわからないだろー」
まるで見習いだった頃のようにヴァレンは駄々をこねる。しかし口先だけでそれ以上実行しようとはしない。奇行を押さえられると、そこでいちおうは諦めるのが、幼い頃から変わらないヴァレンの習性だ。
「やってみなくてはわからない、というのには同意ですけれどね……」
くすりと笑い、エアイールはヴァレンを後ろから抱きしめた状態のまま、耳をそっと噛む。びくっとヴァレンの身体が震え、鼻にかかった息が漏れた。
「……するのか?」
あっけらかんとヴァレンは尋ねてくる。幼い頃から変わらなかったはずの関係は、あるきっかけを経てひとつの壁を踏み越えた。
「あなたがお嫌でなければ」
「んー、まあいいけど」
ヴァレンはあっさりと受け入れてくれる。しかし、身体はいっときエアイールに委ねてくれても、心の行方はわからない。
「……奇跡が起これば、と思っているのはわたくしでしょうね」
恥じらいもためらいもなく寝室に向かおうとするヴァレンの後ろ姿を眺め、エアイールはぽつりと呟いた。
「どうかしたのですか?」
「いや……あの木の上に鳥が止まっているだろ」
窓から視線をはずさず、ヴァレンは答える。言われてエアイールも眺めてみれば、細い木の枝に一羽の鳥が止まっていた。
「はあ、それが?」
「ここからの距離は範囲内だ。跳べる。でも、あの木の枝は細すぎる。俺の体重は支えきれないだろう」
「……何故、跳ぼうとするのですか」
ついエアイールは呆れた声を漏らしてしまうが、ヴァレンは気にせず続ける。
「ならば、幹に張り付くしかない。しかし、ここでも問題がある。幹に張り付くことができたとして、その衝撃で鳥は逃げてしまうだろう。打つ手がないという結果しか導き出せないんだ」
「……あなたの頭の中身が問題ですし、あなた自体がもう打つ手がありませんね」
「昔だったら何も考えずに飛び出していたかもしれないけれど、俺もだんだん落ち着いて分別っていうのが身についてきたからさ。可能性はほぼ無いに等しいってわかるんだよな。そう、わかっているんだ……」
エアイールの嫌味が聞こえているのかどうか、ヴァレンは窓から視線をはずして深く息を吐いた。
「でも、もしかしたら奇跡が起こるかもって思っちゃうんだよな!」
ろくでもない宣言とともにヴァレンは立ち上がる。
エアイールは一瞬、虚を突かれたものの、突拍子も無いヴァレンの行動には慣れきっている。ヴァレンが窓に到達するよりも早く、ヴァレンにしがみついて動きを止めさせることに成功した。
「いいかげんにしてください! あなたはまったく……小さい頃から変わっていませんね」
「なんだよー、やってみなくちゃわからないだろー」
まるで見習いだった頃のようにヴァレンは駄々をこねる。しかし口先だけでそれ以上実行しようとはしない。奇行を押さえられると、そこでいちおうは諦めるのが、幼い頃から変わらないヴァレンの習性だ。
「やってみなくてはわからない、というのには同意ですけれどね……」
くすりと笑い、エアイールはヴァレンを後ろから抱きしめた状態のまま、耳をそっと噛む。びくっとヴァレンの身体が震え、鼻にかかった息が漏れた。
「……するのか?」
あっけらかんとヴァレンは尋ねてくる。幼い頃から変わらなかったはずの関係は、あるきっかけを経てひとつの壁を踏み越えた。
「あなたがお嫌でなければ」
「んー、まあいいけど」
ヴァレンはあっさりと受け入れてくれる。しかし、身体はいっときエアイールに委ねてくれても、心の行方はわからない。
「……奇跡が起これば、と思っているのはわたくしでしょうね」
恥じらいもためらいもなく寝室に向かおうとするヴァレンの後ろ姿を眺め、エアイールはぽつりと呟いた。
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