不夜島の少年 小話集

すれ違い ２

「ヴァレン、今日こそは負けない！」

　新品のカードを卓の上に叩きつけ、客が叫ぶ。

「おまえに巻き上げられたものを、今日は取り返す！」

　客はやる気満々のようだ。

「あー……今日はちょっと趣向を変えてみませんか？」

「趣向？」

「盤上遊戯はいかがですか？　いつもカードばかりでは飽きるかと思いまして」

　ヴァレンは盤を卓の上に置く。
　盤上の駒を取り合う遊びで、貴族など上流階級の間では知的な遊びとして嗜まれている。

「ほう……実は、私はそちらのほうが得意でな。後悔させてやろう」

　にやり、と客が笑った。

　ヴァレンと客の勝負は、延々と引き分けを繰り返した。

「……ここまで引き分けとはな。おまえもなかなかやるな」

　眉根を寄せ、客が唸る。

「先ほどの手は良かった。こちらが負けるかと思ったが……」

「ええ、あの切り替えしはお見事でした。勝てるかと思ったんですけどねー」

「甘いな。それでも、引き分けまでしか挽回できなかった私もまだまだだな。それにしても、これほど拮抗した勝負は初めてだ」

「息が合っているんですかねー」

　からからと笑うヴァレン。

　今日の勝負は引き分けということになったようだ。
　ヴァレンと客は酒を飲みながら、戦略や戦術について語り合う。
　その横で、アルンはやはり奇妙な違和感を覚えていた。ブラムとコリンを見てみれば、二人もやはり同じ思いらしい。
　客には気付かれないよう、三人でそっと視線を交わした。