不夜島の少年 小話集

お仕置き １

　ヴァレンは焦っていた。
　ミゼアスを怒らせてしまったのだ。このままではお仕置きが待っている。どうにかそれだけは避けたい。
　もう残された手段は、謝ることだけだ。今更逃げ出したところで、永久に逃れ続けられるわけがない。時間を置いて沈静化を図れる段階は、とうに過ぎている。誠意を見せて減刑を訴えるのが、唯一残された道だった。

　こうしている間にも、ミゼアスは近づいてくる。もう足音が聞こえてきた。廊下を曲がった先に鬼が迫ってきている。
　今まで培った技を見せ、ミゼアスの心情に訴えかけるしかない。

　ヴァレンは助走をつけ、床を蹴り上げて宙を舞う。空中で一回転して着地すると、目を見開いたミゼアスの姿が見えた。
　まだだ。もう一押し。
　その場でさらに床を蹴り、後方に飛び上がる。軽やかな後方転回をきめ、床に手をついて着地しながらの流れで、そのまま平伏して頭を床にこすり付ける。

「申し訳ございませんでしたっ！　どうかお許しください！」

　完全にきまった。許しを請いながら、ヴァレンの胸には達成感が浮かんでくる。
　じっと床にひれ伏してミゼアスの様子を伺う。ミゼアスはしばらく沈黙していたが、ヴァレンがだんだん焦れてきた頃にようやく大きな息を吐き出した。

「……すごかったね。綺麗な前方宙返り、そして後方転回からの流れで床に平伏……あまりに見事で、思わず許したく……」

　そこまで穏やかに言葉を発すると、ミゼアスはヴァレンの後ろに回りこんだ。

「なるわけがないだろう！」

　声を荒げ、ミゼアスは乱暴にヴァレンの両手を後ろに捻り上げる。

「痛っ！　痛いです！」

「きみはいったい、何なんだい！？　僕にはきみのことがさっぱり理解できないよ！」