不夜島の少年 小話集

ヴァレンの一日～夜～

「さーて、寝るかな」

　伸びをしながらヴァレンは呟く。
　傍らには、すでに潰れた客が突っ伏している。

「ヴァレン兄さん、桶の片付け、終わりました」

　見習いが冷やした布をヴァレンに差し出す。

「ああ、ありがとう。それにしても、やっぱり吐いたな。無理しなきゃいいのに。きみも、ろくでもないものの始末、ご苦労様だったね」

　受け取った布を額に当てながら、ヴァレンは見習いにねぎらいの言葉をかける。

「後は、人を呼んでこの客を寝室に運んでもらってくれるかい？　それで今日の仕事は終わり」

「はい！　お疲れ様でした！」

　元気よく見習いは人を呼びに飛び出して行く。
　ヴァレンは突っ伏して死んだように眠る客を見下ろし、軽く笑みをこぼす。これでは床入りなど、きっと永遠に無理だろう。
　新たな勝利を刻み、ヴァレンは悠々と部屋を出て行った。


　自室に戻り、ヴァレンは干し魚の様子を確かめる。なかなか良い具合のようだ。試しにひとつ味見してみたところ、美味い。
　満足げに頷いて、ヴァレンは干し魚を取り込んでいく。後でミゼアスにお裾分けしてもよいし、談話室で館内の白花たちに振る舞ってもよいだろう。
　今日も美味しいものに巡りあえたと感謝し、ヴァレンは就寝の支度をする。
　ミゼアスに怒られることも、お仕置きから逃げ回ることもなく、平和な日だった。また明日も朝市に顔を出してみよう。きっと、美味しいものが待っているはずだ。

　また明日も美味しいものに巡りあえますように――
　ヴァレンは寝台の中で祈りを捧げ、そっと目を閉じた。