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ヴァレンの一日~夕方~
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ミゼアスも帰り、ヴァレンは急いで客を迎える支度を始める。ヴァレンは早めに客を迎えることが多い。大抵、夕方には仕事が始まる。
準備を整えながら、ヴァレンは今日の客についての情報を思い出す。わりと最近通い始めるようになった貴族の男だ。今まで男が言った台詞や取った行動を全て思い出し、今日はこうくるだろうという予測を立てる。
「洗面器か桶、用意しておいてー」
自分付きの見習いに声をかけ、これで準備は万端だとヴァレンは一人頷く。
やがて、客がやってくる。がっしりとした体躯の壮年男性だ。顔もいかつい。
「今日こそ、おまえに勝つ!」
客は勇ましく宣言した。ヴァレンはにっこりと笑って挑戦を受ける。
「北方からの火酒をご用意してあります。以前、お好きと伺ったので」
「おお……それはありがたい。だが……そんなことを言っただろうか」
「ええ、確かに。それとも、俺の勘違いでしたか?」
「いや、きっと言ったのだろう。それにしても、よく覚えていたものだな」
「それはもちろん。あなたがおっしゃったことなら、忘れなどしませんよ」
口元に笑みを乗せてやると、客の顔がわずかに赤くなったようだった。
「そ……そうか。今日こそおまえに勝って、そ、その……床入りを……」
「床入りくらい、お望みなら今すぐにでも……」
「い、いや! おまえに負けたままでは、気がすまん! まずはおまえに勝ってからだ!」
「はあ……」
よくわからないこだわりだ。しかし客の望みならば、おとなしく従うしかない。ヴァレンは取り寄せた火酒を杯に注ぐ。
「それでは……乾杯」
「乾杯」
乾杯の言葉を合図に、勝負が始まる。飲み比べだ。
客が勝ったら、床入りをして寝台の上でヴァレンが精一杯奉仕するということになっているらしい。そんな約束をした覚えはないのだが、まあいいかと訂正することもなくヴァレンは放っておいている。
そんな面倒なことをしなくても、床入りくらい望めば拒まないのだが、したいというものをはねつけるほど無粋ではない。
ヴァレンはおとなしく火酒を煽り、飲み比べに応じるのだった。
準備を整えながら、ヴァレンは今日の客についての情報を思い出す。わりと最近通い始めるようになった貴族の男だ。今まで男が言った台詞や取った行動を全て思い出し、今日はこうくるだろうという予測を立てる。
「洗面器か桶、用意しておいてー」
自分付きの見習いに声をかけ、これで準備は万端だとヴァレンは一人頷く。
やがて、客がやってくる。がっしりとした体躯の壮年男性だ。顔もいかつい。
「今日こそ、おまえに勝つ!」
客は勇ましく宣言した。ヴァレンはにっこりと笑って挑戦を受ける。
「北方からの火酒をご用意してあります。以前、お好きと伺ったので」
「おお……それはありがたい。だが……そんなことを言っただろうか」
「ええ、確かに。それとも、俺の勘違いでしたか?」
「いや、きっと言ったのだろう。それにしても、よく覚えていたものだな」
「それはもちろん。あなたがおっしゃったことなら、忘れなどしませんよ」
口元に笑みを乗せてやると、客の顔がわずかに赤くなったようだった。
「そ……そうか。今日こそおまえに勝って、そ、その……床入りを……」
「床入りくらい、お望みなら今すぐにでも……」
「い、いや! おまえに負けたままでは、気がすまん! まずはおまえに勝ってからだ!」
「はあ……」
よくわからないこだわりだ。しかし客の望みならば、おとなしく従うしかない。ヴァレンは取り寄せた火酒を杯に注ぐ。
「それでは……乾杯」
「乾杯」
乾杯の言葉を合図に、勝負が始まる。飲み比べだ。
客が勝ったら、床入りをして寝台の上でヴァレンが精一杯奉仕するということになっているらしい。そんな約束をした覚えはないのだが、まあいいかと訂正することもなくヴァレンは放っておいている。
そんな面倒なことをしなくても、床入りくらい望めば拒まないのだが、したいというものをはねつけるほど無粋ではない。
ヴァレンはおとなしく火酒を煽り、飲み比べに応じるのだった。
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