不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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ヴァレンの一日~早朝~

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 ヴァレンの朝は早い。
 下手をすれば他の白花たちがようやく寝入るような早朝に起き出し、活動を始める。
 適当に果物などをかじりつつ準備体操をし、軽く身支度を整えると、まずは朝の走り込みだ。すっかり寝静まっている白花の区画を一人、走っていく。
 こんな時間に外を走っている者はヴァレン以外に誰もいない。たまに下働きの者とすれ違うので、『おはよー!』と挨拶しつつヴァレンは駆け続ける。

 ぐるぐると街中を走りつつ、頃合いを見計らって港に向かう。朝、水揚げされたばかりの新鮮な魚介類が入荷するのだ。
 島の娼館全体で一定量を買い上げているが、料理店を営む者たちも仕入れに来るために小さな市が開かれる。商売人たちに混ざってヴァレンも市をのぞく。

「よう、ヴァレン」

 漁師の一人がヴァレンに声をかける。素早く小魚をさばいて果実の汁を少しかけると、それをヴァレンの目の前に差し出した。ヴァレンは戸惑うことなく、差し出された魚にぱくりと食いつく。
 爽やかな酸味のある香りが広がり、引き締まった身のほのかな甘みを引き立てる。ヴァレンは新鮮な歯ごたえのある食感を楽しんだ。

「やっぱり、とれたては美味しいなー。こう、ちょっと果実の汁だけ垂らして食べるのが、またいいよね」

 漁師の手から魚を食べたヴァレンは、満面の笑みを浮かべる。

「ヴァレン、こっちにはカニがあるぞ」

 今度は他の漁師から声がかかる。そちらでも漁師の手からヴァレンは食べさせてもらう。
 すっかり名物となった、ヴァレンの餌付けである。

 漁師たちは港までしか出入りを許されておらず、島の内部に入ることはできない。美しく、優雅なこの島の花たちに憧れながらも、姿を見ることができないのだ。花たちがこのような早朝に港までやってくるはずもないと、あきらめてもいた。
 そこにある日現れたのが、ヴァレンである。しかも上級の四花という、漁師たちにとってはおそらく一生接点がないであろう存在だ。
 あまりに元気で気さくすぎて想像とはかなり違ったが、見かけだけなら漁師たちが普段見ることがないような美少年である。

 お近づきになりたいと思ったある者が新鮮な魚という餌をちらつかせたところ、あっさりとヴァレンは食い付いた。しかも、文字どおり。
 それから餌付けが恒例となり、今に至る。
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