不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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いたずら 1

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「ヴァレン。あなたの髪、甘い香りがしますね」

 放課後の教室で、エアイールはふと漏らした。

「うん、昨日ミゼアス兄さんに洗われた。洗髪の仕方がなっていないって指導されたー」

「……ミゼアス兄さんに洗われた? どこで、どうやって?」

 ヴァレンが平然と答えると、エアイールは軽く顔をしかめる。

「ミゼアス兄さんの浴室で、一緒にお風呂に入りながら」

「……何ですって?」

 エアイールはヴァレンの答えに、地を這うような低い声を漏らす。

「ミゼアス兄さんと一緒にお風呂? 何てうらやましい……」

 ギリギリと歯噛みする音すら聞こえてきそうな表情でエアイールは呟く。
 この島では花や見習いたちには入浴の義務がある。商売柄、身を清潔に保つことが求められるためだ。特に病気や怪我などの理由がない限り、毎日入浴しろという決まりすらある。

「そう言われても……ああ、この香りがうらやましいの? ミゼアス兄さんが使っているものと同じだから、良いものなんじゃないかな。聞いてみる」

「いえ、そちらでは……いや、ミゼアス兄さんと同じ……やっぱりうらやましいですが、でも……」

 難しい顔をしながらぶつぶつと呟くエアイールに、ヴァレンは首を傾げる。

「ミゼアス兄さんが使っているものなら、良いものだよね。普段は僕とお揃いだものね。昨日はいなかったからどうしたのかと思ったら、そうだったんだ。今日は館内の共同浴場を使うのかな?」

 割り込んできた声に、エアイールは渋面をさらに深くする。
 ネヴィルが現れたのだ。

「んー、今日は普段と同じー」

 無邪気に答えるヴァレン。

「そう。じゃあ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかな。ほら、エアイールも。みんなで一緒に帰ろうよ。エアイールは途中までだけれどね。エアイールは店が違うものね」

 薄く口元に笑みを浮かべ、ネヴィルは得意げな顔をする。

「くっ……」

 エアイールは拳を握り締め、悔しそうな顔でネヴィルを睨む。しかしネヴィルは余裕の態度で、平然とエアイールの視線を受け流す。

「エアイール、どうしたの? お腹でも痛いの?」

 心配そうにヴァレンが尋ねると、エアイールははっとした表情で首を横に振った。

「い、いえ……別にそういうわけでは……」

「じゃあ、一緒に帰ろう?」

「……はい」

 軽く首を傾げてヴァレンが問うと、エアイールはぐったりとした様子で頷いた。ネヴィルは上機嫌で微笑を浮かべている。
 今日はネヴィルに軍配が上がったようだった。
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