不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
58 / 136

夢は森の香り 2

しおりを挟む
「申し訳ございませんでした」

 ミゼアスが部屋に戻ると、床に平伏したヴァレンが待ち構えていた。額を床に擦りつけ、謝罪の言葉を述べる。

「……相変わらず、きみの勘の鋭さは常軌を逸しているね」

 ゆっくりと息を吐き出し、ミゼアスは呟く。さてこれからお仕置きだというときに、自ら出頭して謝罪するとは絶妙すぎる。

「心を入れ替え、これからは礼節をわきまえた行動を心がけたいと思います」

「きみは心の入れ替わりがずいぶんと激しいよね。また部屋を出た途端に、入れ替わっちゃうんじゃないのかな」

「いえ、そんなことはありません。だから、お仕置きだけはお許しください。この間は、本当にやりすぎたと思っています。本当です」

「……うん、逃げようとして、窓から飛び降りた奴は初めてだね。しかも三階から。一瞬、お仕置きよりも命を絶つほうを選んだのかと思ったよ」

 談話室にて他の白花たちに出入り口を塞がせ、ヴァレンを追い詰めたのだ。
 しかしヴァレンは開け放たれた窓へと向かって走っていったかと思うと、そこから飛び降りた。
 そのことを思い出すと、ミゼアスは頭痛を覚える。

「あっはっは、まさか」

 ヴァレンは笑って否定する。確かに彼が自ら命を絶つことなど、ありえないだろう。

「あわてて窓から下を見れば、きみが走っていくところだった。よく無事に着地できたよね。心配して損したよ。きみはどうして、白花なんてやっているんだい? 何かおかしいよね。ああ、それと窓には格子が必要かもね」

 まさか三階から飛び降りるとは想定外だった。あのときは心臓が凍りつくような思いをしたものだ。
 そこまで追い詰めてしまったのかと罪悪感に包まれながら地面を見下ろせば、元気に走っていくヴァレンの姿が見えた。通りを歩く人々からの歓声と拍手に応え、手を振っていた姿がミゼアスの脳裏に蘇る。

 後から目撃者に聞けば、空中で回転して見事に着地したのだという。そして着地の衝撃を感じさせない軽やかな走りで、通りを駆けていったそうだ。
 ヴァレンは年を経るごとに、わけのわからない芸が増えていく。彼はいったい何を目指しているのだろうか。ミゼアスは不思議で仕方がない。
しおりを挟む
本編『不夜島の少年
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

処理中です...