不夜島の少年 小話集

ヴァレンと見習いたち ３

「ヴァレン兄さん」

「……今度はきみかい、アルン君。何かな？」

　本を抱えながらやってきたアルンに、ヴァレンはため息を漏らしたい気持ちを必死にこらえる。

「何だか疲れていませんか？」

「……気のせいだろう。それで、どうしたのかな？」

　ヴァレンが促すと、アルンは本を開いた。

「確率計算でわからないところがあるんですけれど、教えてもらえませんか？」

「ああ、いいよ。どれかな？」

　まともな質問にヴァレンは胸を撫で下ろす。アルンの持ってきた問題もヴァレンにとっては難しいものではなかった。
　ヴァレンが解き方を教えると、アルンは感心したように頷いた。

「なるほど……ありがとうございます」

「どういたしまして」

　無事問題が解決したアルンは、本とヴァレンを交互に見て何か考え込む。

「……不思議なんですけれど」

「何？」

　なにやら不穏なものを感じ取り、ヴァレンはためらいがちに尋ねる。

「ヴァレン兄さんって頭が良いのに、どうして普段は隠しているんですか？　馬鹿に見せかけて油断を誘うっていうやつですか？」

「……別に隠しているわけじゃないんだけれどな。俺、そんなに馬鹿かい……」