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夜の訪問者2
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「……で、あなたは何をしに来たのかしら?」
本格的に呆れてきながら、ネリーは問いかける。
「ああ……そうそう、彼は僕が担当することになったから。侯爵からも許しはもらっている。今日は寝てしまっているのなら、明日にでも引き渡してもらえるかな」
「えっ?」
ネリーはミゼアスの言葉に目を見開く。
実はアデルジェスは監視対象なのだ。
アデルジェスが島に入る前、ネリーにその役目が言い渡されている。側につき、さりげなく見守るようにとのことだった。
「……あなたが出てくるっていうことは、実はやっかいなことが絡んでいるのかしら?」
おそるおそる尋ねてみる。
ミゼアスはこの島における最高位の五花だ。しかも五花の筆頭ですらある。通常時、彼に逆らえる者などこの島には誰もいない。
その彼が出てくるのなら、相当な大事になっている可能性がある。
「さあ、それはどうだろうね。僕に任せてもらえればいいから、きみは何も心配しなくていいよ」
しかし、当然というべきかミゼアスはまともには答えない。ネリーもそれ以上は問いかけるのをやめる。
本当にやっかいなことになっているのなら、内容を言うはずもないだろう。
「……わかったわ。明日、どうすればいいかしら?」
「そうだね。昼頃、広場に行くから連れてきてもらえるかな。明日は休校日だから、見習いの子たちを連れて食事に行く予定なんだ。そのときにでも」
「わかったわ。昼頃、広場に連れて行けばいいのね」
「ああ、それと……もう寝ているそうだから大丈夫だろうけれど、いちおう。手出し、しないでね。僕のために取っておいて」
薄く妖艶な笑みを浮かべるミゼアス。
「あなた……まったくもう……。でも、彼は心に決めた人がいるみたいよ?」
あきらめたような吐息を漏らしながらネリーは言う。
するとミゼアスの表情が一瞬固まり、わずかに目が細められる。口元には微笑を浮かべたままだったが、先ほどよりも弱々しく見えた。
「へえ……どんな相手だい?」
「何でも、小さい頃に幼馴染の子が娼館に売られていったんですって。名前は……えっと……そうそう、フェイちゃんだって言っていたわ。そういえばミゼアス、あなたフェイちゃんっていう金髪に緑色の瞳をした女の子、知らない? ……ミゼアス?」
ネリーは訝しげにミゼアスの様子を伺う。
ミゼアスは唖然とした顔をしていた。先ほどまでの妖艶な表情は消えうせ、ただ緑色の瞳を大きく見開くだけだった。
「え……あ、いや……知らないな。僕の知っている限り、赤花で該当者はいないよ」
ややあって、ようやくミゼアスは口を開く。
「どうかしたのかしら? そういえば、あなたも金髪に緑色の瞳ね」
じっとミゼアスを見ながらネリーは問いかける。しかしミゼアスはつまらなさそうな無表情を返すだけだった。
「……同じ色の連中なんて、探せばいくらでもいるだろう」
「まあ、それもそうね」
どうも釈然としなかったが、ネリーは頷いた。もし何かあるのだとしても、おそらく自ら吐露することはないだろう。余計な詮索は無用だ。
「……とにかく、よろしく頼むよ。それじゃあ、明日」
そう言ってミゼアスは立ち上がり、早々に退出していった。ネリーは怪訝な顔で、開け放された扉から衣擦れの音が遠ざかっていくのを聞いていた。
本格的に呆れてきながら、ネリーは問いかける。
「ああ……そうそう、彼は僕が担当することになったから。侯爵からも許しはもらっている。今日は寝てしまっているのなら、明日にでも引き渡してもらえるかな」
「えっ?」
ネリーはミゼアスの言葉に目を見開く。
実はアデルジェスは監視対象なのだ。
アデルジェスが島に入る前、ネリーにその役目が言い渡されている。側につき、さりげなく見守るようにとのことだった。
「……あなたが出てくるっていうことは、実はやっかいなことが絡んでいるのかしら?」
おそるおそる尋ねてみる。
ミゼアスはこの島における最高位の五花だ。しかも五花の筆頭ですらある。通常時、彼に逆らえる者などこの島には誰もいない。
その彼が出てくるのなら、相当な大事になっている可能性がある。
「さあ、それはどうだろうね。僕に任せてもらえればいいから、きみは何も心配しなくていいよ」
しかし、当然というべきかミゼアスはまともには答えない。ネリーもそれ以上は問いかけるのをやめる。
本当にやっかいなことになっているのなら、内容を言うはずもないだろう。
「……わかったわ。明日、どうすればいいかしら?」
「そうだね。昼頃、広場に行くから連れてきてもらえるかな。明日は休校日だから、見習いの子たちを連れて食事に行く予定なんだ。そのときにでも」
「わかったわ。昼頃、広場に連れて行けばいいのね」
「ああ、それと……もう寝ているそうだから大丈夫だろうけれど、いちおう。手出し、しないでね。僕のために取っておいて」
薄く妖艶な笑みを浮かべるミゼアス。
「あなた……まったくもう……。でも、彼は心に決めた人がいるみたいよ?」
あきらめたような吐息を漏らしながらネリーは言う。
するとミゼアスの表情が一瞬固まり、わずかに目が細められる。口元には微笑を浮かべたままだったが、先ほどよりも弱々しく見えた。
「へえ……どんな相手だい?」
「何でも、小さい頃に幼馴染の子が娼館に売られていったんですって。名前は……えっと……そうそう、フェイちゃんだって言っていたわ。そういえばミゼアス、あなたフェイちゃんっていう金髪に緑色の瞳をした女の子、知らない? ……ミゼアス?」
ネリーは訝しげにミゼアスの様子を伺う。
ミゼアスは唖然とした顔をしていた。先ほどまでの妖艶な表情は消えうせ、ただ緑色の瞳を大きく見開くだけだった。
「え……あ、いや……知らないな。僕の知っている限り、赤花で該当者はいないよ」
ややあって、ようやくミゼアスは口を開く。
「どうかしたのかしら? そういえば、あなたも金髪に緑色の瞳ね」
じっとミゼアスを見ながらネリーは問いかける。しかしミゼアスはつまらなさそうな無表情を返すだけだった。
「……同じ色の連中なんて、探せばいくらでもいるだろう」
「まあ、それもそうね」
どうも釈然としなかったが、ネリーは頷いた。もし何かあるのだとしても、おそらく自ら吐露することはないだろう。余計な詮索は無用だ。
「……とにかく、よろしく頼むよ。それじゃあ、明日」
そう言ってミゼアスは立ち上がり、早々に退出していった。ネリーは怪訝な顔で、開け放された扉から衣擦れの音が遠ざかっていくのを聞いていた。
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