不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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送り出す痛み1

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 真昼間からミゼアスとアデルジェスは寝室にこもってしまった。
 アルン達見習い三人が途方にくれていると、ヴァレンが助けに来てくれたのだ。アルンも手伝ってくれとのことだったので、アルンはヴァレンの後をついていった。
 ヴァレンは今晩の客にミゼアスは寝込んでいると断りの連絡をいれ、あっさりと片はついた。その後、少しお茶でも飲もうと言われ、アルンはヴァレンの部屋に招かれたのだ。

 ヴァレンの部屋は意外なほど物が少なく、あっさりとした部屋だった。
 今までヴァレンを呼びに来るなどでこの部屋に来たことはあったが、こうしてゆっくりと入るのは初めてだ。アルンは何となくきょろきょろしてしまう。

「はい、お茶。ミゼアス兄さんが使っているのと同じものだから、あまり代わり映えしないだろうけれど」

 そう言ってヴァレンが卓の上にお茶を置く。
 アルンは礼を言ってお茶に手を伸ばす。確かによくなじみのある香りだった。

「……さて、アルン君。きみには言っておこうと思ってね。ミゼアス兄さんは、多分もうすぐ島を出ると思うよ」

「え……?」

 唐突なヴァレンの言葉に、アルンはお茶に手を伸ばしたまま動きを止めてしまった。ゆっくりとヴァレンを見るが、ヴァレンは真剣な表情だった。

「ど……どうしてですか……?」

 震える声でアルンは問いかける。
 けちで人使いの荒い上役にこきつかわれ、このまま脱落するのではと思っていたアルンを救い出してくれたのがミゼアスだ。ミゼアスがいなければ、今のアルンはなかった。
 優しく守ってくれ、時には厳しく導いてくれるミゼアスは、アルンにとっては誰よりも敬愛する大切な存在なのだ。そのミゼアスがもうすぐ島を出るとは、どういうことだろうか。

「これはまだ誰にも言わないようにね。ミゼアス兄さんとジェスさんは幼馴染なんだよ。それも、ミゼアス兄さんにとっては初恋の相手で、十年以上ずっと想い続けているんだ」

「……え?」

 予想もしない言葉にアルンは目を見開く。

「ジェスさんにも言わないようにね。ミゼアス兄さんには何か考えていることがあるみたいだから」

 ヴァレンは念を押してくる。
 
「で……でも、それで島を出て行くとは……」

「ずっと想い続けている、行方知れずになっていた相手が現れたんだよ。離すと思うかい?」

「島に一緒に残るっていうことも……」

「好きな相手のいる側で、他の男に抱かれたいと思うかい? また、好きな相手が他の男に抱かれるのを平然と見ていられると思うかい?」

「……っ」

 儚い希望にすがろうとするアルンの言葉を、ヴァレンは次々と叩き潰していく。
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