不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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五花をめざして11

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「五花におなり、アルン」

 落ち着く頃にはすっかりのぼせそうになっていたアルンを洗い場に上げ、髪を洗ってやりながらミゼアスは言った。

「この島の格差は知っているだろう? 今回の件だって、僕が五花じゃなければ犠牲者が一人増えていただけだった。五花っていうのは一花から四花までとは違う、特別な存在なんだ。どうせ白花として生きていかなければならないのだったら、上に行きなさい」

 ミゼアスの言葉をアルンは黙って聞いていた。

「僕がきみの上役でいるうちは、きみを守ってあげられる。でも、いつまでもそうしていることはできない。どんなに長くても、きみが十二歳になるまでだ。もしかしたら、それよりも前に僕がいなくなってしまうかもしれない」

 アルンはびくっと身体を震わせる。

「病気になってしまうことだってあるかもしれない。実際、僕は五年前に死にかけている。それに、そもそも僕は白花としてはとっくに賞味期限切れだ。いつ今の座から退かなくてはいけないかわかったものじゃない」

「え……? 賞味期限切れ……?」

 驚いてアルンは振り向く。病気はともかく、賞味期限切れというのが何のことかわからなかった。

「白花として一番の期間っていうのは、せいぜい十八歳くらいまでだ。あまり育つと客がつきにくくなってしまうんだよ。女相手に宗旨替えっていう手もあるけれど、どちらにせよ稼ぎは減るからね。白花っていうのは赤花よりも稼ぎが大きい分、良い期間も短いんだよ」

 ミゼアスの説明にアルンは首を傾げる。白花の傾向については知っている。しかし、それがミゼアスにどう関係するのかがわからなかった。

「きみ、知らなかった? 僕はもう二十歳だよ」

「は!?」

 アルンは思わず間抜けな声をあげてミゼアスを見る。
 あどけなさの残る顔はせいぜい十五歳程度にしか見えない。下手をすれば十三歳くらいでも通りそうだ。

「……四捨五入すれば二十歳、っていう冗談ですか?」

「いいや、残念ながら十代は終わった。四捨五入してもしなくても二十歳。きみは僕をいくつくらいだと思っていたんだい?」

「十五か、せいぜい十六歳くらいと思っていました……」

「僕は白花になって八年だよ。それだとどう考えても計算が合わない。まあ、十五のときには五花だったけれど。ちなみに五花になったのは十四のときだから、六年前だね」

 アルンは呆然とする。ミゼアスが昨日今日で五花になったわけではないことは知っていたが、これほどとは知らなかったのだ。
 確かに落ち着きぶりや貫禄を考えれば、納得がいく。

「……二年で五花になったんですか」

「うん、最短記録。頑張って、抜いてみて」

 あっさりと言うミゼアス。
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