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五花をめざして8
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ミゼアスはわざと客を怒らせ、殴られたのだ。客といえども暴力は禁止行為である。まして五花であるミゼアスを殴ったのだから、この島の規則に照らし合わせれば相当な罪になる。賠償請求と出入り禁止が言い渡されることだろう。
最初からミゼアスはアルンを犠牲にするつもりはなかったのだ。
アルンは裏切られたわけではなかったという喜びと、ミゼアスを疑ってしまったことに対する後ろめたさがわき上がってきた。
「僕……」
何を言っていいのかわからず、アルンは俯く。
「それにしてもおまえ、色っぽかったな。ミゼアス兄さんってやっぱり上手なんだろう?」
からかうようにブラムが声をかけてくる。思わずアルンは顔を上げ、目を見開いて口をぱくぱくさせる。
「全部見ていたよ。声は少ししか聞こえなかったけれど。服を着たままっていうのが倒錯的で、全裸よりもいやらしいかもしれないなって思っていた」
尚も続けるブラムに、アルンは真っ赤になって両手でブラムの口を塞ぐ。
「馬鹿っ! 黙れよ!」
「んぐっ……んん……ぐぐ!」
じゃれあうアルンとブラムを、ミゼアスも老人もやや呆れながら微笑ましく見ていた。
しかしコリンだけは別の物に心を奪われていた。
「あぁ……おっきいなぁ……こんな凄いの、使ったりしたら壊れちゃいそう……いいなぁ……」
うっとりとしたため息を漏らしながら呟くコリンの声が響いた。床に転がる凶悪な物体を見て、もじもじと身体をよじっている。
思わずアルンとブラムは争い合う手を止めてコリンを見てしまう。ミゼアスと老人ですら、ぎょっとした顔を向けていた。
「え……あ……その……ごめんなさい……」
周囲の視線に気づき、コリンは俯いてぼそっと謝る。
「……じゃあ、わしは行くからの。おとなしく療養しとるんじゃぞ」
「……了解。そっちは任せたよ」
何もなかったことにしたようで、老人とミゼアスは言葉を交わす。
アルンとブラムもお互いに顔を見合わせ、何となく沈黙してしまった。もう争い合う気分にもなれない。
老人が出て行くと、ミゼアスは座ったままアルンに顔を向ける。
「アルン、怖かっただろう。もう大丈夫だよ。悪かったね」
「ミゼアス兄さん……」
アルンはブラムを突き放し、ミゼアスに駆け寄ろうとする。
「あ、待った。そこは砕けた酒瓶のかけらが飛び散っているから危ないよ」
冷静なミゼアスの声に、アルンは動きを止める。
見れば床には硝子のかけらが飛び散っている。アルンの座っている絨毯にまで酒が染みており、濃厚な酒の香りが漂っていることに今更気づいた。
アルンは酒や硝子の飛び散る場所を避けてミゼアスのもとに行く。
「ミゼアス兄さん……殴られた場所は大丈夫ですか……?」
ミゼアスの前に膝をたたんで座りながら、アルンは上目遣いにミゼアスをうかがう。
「うん、大丈夫。殴られるとき、わざとその方向に動いて衝撃を流した。それで吹っ飛んだんだけど、より派手な演出効果になっただろう」
ミゼアスはアルンの頭を撫でながらそう言う。
「ああ……でも、きみにもお酒がかかっちゃったね」
軽く眉根をしかめるミゼアス。
「そんな……お酒がかかったくらい……。すぐ、片付けます」
そう言って立ち上がろうとするアルンをミゼアスは手で制した。
「いや、きみの服は濡れてしまったから早く着替えたほうがいいよ。……ブラム、コリン、後片付けを頼むよ。今日はこれで終わりだから」
「はい、ミゼアス兄さん」
ミゼアスの言葉にブラムとコリンが頷く。
それを確認すると、ミゼアスは立ち上がった。
「アルン、おいで。洗ってあげるよ。お風呂に行こう。……ああ、ブラム、コリン。アルンの着替えも運んでおいて」
最初からミゼアスはアルンを犠牲にするつもりはなかったのだ。
アルンは裏切られたわけではなかったという喜びと、ミゼアスを疑ってしまったことに対する後ろめたさがわき上がってきた。
「僕……」
何を言っていいのかわからず、アルンは俯く。
「それにしてもおまえ、色っぽかったな。ミゼアス兄さんってやっぱり上手なんだろう?」
からかうようにブラムが声をかけてくる。思わずアルンは顔を上げ、目を見開いて口をぱくぱくさせる。
「全部見ていたよ。声は少ししか聞こえなかったけれど。服を着たままっていうのが倒錯的で、全裸よりもいやらしいかもしれないなって思っていた」
尚も続けるブラムに、アルンは真っ赤になって両手でブラムの口を塞ぐ。
「馬鹿っ! 黙れよ!」
「んぐっ……んん……ぐぐ!」
じゃれあうアルンとブラムを、ミゼアスも老人もやや呆れながら微笑ましく見ていた。
しかしコリンだけは別の物に心を奪われていた。
「あぁ……おっきいなぁ……こんな凄いの、使ったりしたら壊れちゃいそう……いいなぁ……」
うっとりとしたため息を漏らしながら呟くコリンの声が響いた。床に転がる凶悪な物体を見て、もじもじと身体をよじっている。
思わずアルンとブラムは争い合う手を止めてコリンを見てしまう。ミゼアスと老人ですら、ぎょっとした顔を向けていた。
「え……あ……その……ごめんなさい……」
周囲の視線に気づき、コリンは俯いてぼそっと謝る。
「……じゃあ、わしは行くからの。おとなしく療養しとるんじゃぞ」
「……了解。そっちは任せたよ」
何もなかったことにしたようで、老人とミゼアスは言葉を交わす。
アルンとブラムもお互いに顔を見合わせ、何となく沈黙してしまった。もう争い合う気分にもなれない。
老人が出て行くと、ミゼアスは座ったままアルンに顔を向ける。
「アルン、怖かっただろう。もう大丈夫だよ。悪かったね」
「ミゼアス兄さん……」
アルンはブラムを突き放し、ミゼアスに駆け寄ろうとする。
「あ、待った。そこは砕けた酒瓶のかけらが飛び散っているから危ないよ」
冷静なミゼアスの声に、アルンは動きを止める。
見れば床には硝子のかけらが飛び散っている。アルンの座っている絨毯にまで酒が染みており、濃厚な酒の香りが漂っていることに今更気づいた。
アルンは酒や硝子の飛び散る場所を避けてミゼアスのもとに行く。
「ミゼアス兄さん……殴られた場所は大丈夫ですか……?」
ミゼアスの前に膝をたたんで座りながら、アルンは上目遣いにミゼアスをうかがう。
「うん、大丈夫。殴られるとき、わざとその方向に動いて衝撃を流した。それで吹っ飛んだんだけど、より派手な演出効果になっただろう」
ミゼアスはアルンの頭を撫でながらそう言う。
「ああ……でも、きみにもお酒がかかっちゃったね」
軽く眉根をしかめるミゼアス。
「そんな……お酒がかかったくらい……。すぐ、片付けます」
そう言って立ち上がろうとするアルンをミゼアスは手で制した。
「いや、きみの服は濡れてしまったから早く着替えたほうがいいよ。……ブラム、コリン、後片付けを頼むよ。今日はこれで終わりだから」
「はい、ミゼアス兄さん」
ミゼアスの言葉にブラムとコリンが頷く。
それを確認すると、ミゼアスは立ち上がった。
「アルン、おいで。洗ってあげるよ。お風呂に行こう。……ああ、ブラム、コリン。アルンの着替えも運んでおいて」
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