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五花をめざして2
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いつものように、アルンは学校にやってきた。
見習いたちには学校に通う義務がある。それも他の街で一般の子供たちが受けるような授業よりもはるかに高度な内容を学ぶ。
もともとこの島は身分が高く裕福な貴族向けに作られた娼館なのだ。そういった高貴な方々のお相手をするには、高い知性と教養が必要とされる。そのための教育機関なのだ。
当然、脱落者も出てくる。そういった者は島から放出されるのだ。
そうなれば行き先は、不夜島よりはるかに格下の娼館だ。休む間もなく客を取らなければならないような生活が待っている。
また、場合によっては裏の店に回されることもあるという。
そちらは命を失いかねない遊びに使われることすらあるという、恐ろしい場所だ。存在は誰もが知っているが、詳しいことは語られないという謎の場所でもある。
どちらにせよ、誰もが避けたいところだろう。
十二歳になるまでに基礎課程を終えることができれば、白花として認められる。
そうなれば後は頑張り次第で出世できる。一花から五花まである格付けのうち、最上位の五花ともなればかなり自由な振るまいが許される。貴族の客を振ることすら可能になるのだ。
アルンは十歳にしてこの基礎課程を終えていた。
もともと優秀ではあったのだが、ミゼアス付きになってからさらに磨きがかかった。
しっかり栄養と休息を取れているので、授業にも身が入る。疑問点はミゼアスに聞けば教師よりもわかりやすく教えてくれる。
気がつけば、基礎課程を終えていた。それも、ミゼアスと並んでの最短記録だった。
「僕と同じく最短記録か。きみは才能もあるし、何より努力家だ。僕はきみのことを誇らしく思うよ」
アルンの憧れであり目標でもあるミゼアスはこう言って褒めてくれた。
将来への不安が消えたわけではないが、少なくとも今は庇護され認められている。アルンは満たされていた。
そのために同級生たちの不穏な噂を聞いたときも、どこか他人事のようだった。
「まだ起き上がれないらしいよ」
「ひどいよな……それって何で違反にならないの?」
「客が直接やったわけじゃないから、許されるらしいよ」
「でも、傷をつけているんだろう? 出血がひどかったって」
「不慮の事故、ってことになっているみたい」
「何だよ、それ。これで三人目だろう? どうしてそんなのが許されるんだよ……」
暗い顔で同級生たちがひそひそと話していた。
何事かと思ってアルンが尋ねてみると、見習いに手出しをするひどい客がいるという話だった。
見習いへの手出しは禁止だ。しかし、軽い戯れ程度であれば黙認される。
この客は直接自分では手を出さず、上役に見習いを犯させるというのだ。本来であればそれも禁止なのだが、道具を使わせるのだという。道具による戯れであれば、明確な禁止規定はない。
それだけならまだしも、どうやらその客は傷つくところを見たがっているのだという。無理やり秘所をこじ開けられ傷つき、苦しむ姿を見て楽しんでいるそうだ。
悪いことにその客は裕福な名門貴族の御曹司だそうで、金を詰まれて権力に訴えられれば逆らいようがない。
「おまえはいいよな。ミゼアス兄さんなら名門貴族だろうが断れるだろう」
「どっかの金持ちがミゼアス兄さんと同じ重さの黄金で身請けしたいって言ったときも、一昨日きやがれってはねつけたんだろう? どれだけ金を積まれても、気に入らなかったら口すら聞かないっていうもんな」
「狙われているのは金髪の子ばかりらしいよ。おまえも金髪だけれど、おまえはもし何かあってもミゼアス兄さんが守ってくれるんだろうなぁ。うらやましいよ」
口々に言われ、アルンは黙ったまま曖昧に頷いた。
同級生たちの言うとおり、ミゼアスがそんなひどいことを許すとは思えなかった。
このときは確かに他人事だったのだ。
見習いたちには学校に通う義務がある。それも他の街で一般の子供たちが受けるような授業よりもはるかに高度な内容を学ぶ。
もともとこの島は身分が高く裕福な貴族向けに作られた娼館なのだ。そういった高貴な方々のお相手をするには、高い知性と教養が必要とされる。そのための教育機関なのだ。
当然、脱落者も出てくる。そういった者は島から放出されるのだ。
そうなれば行き先は、不夜島よりはるかに格下の娼館だ。休む間もなく客を取らなければならないような生活が待っている。
また、場合によっては裏の店に回されることもあるという。
そちらは命を失いかねない遊びに使われることすらあるという、恐ろしい場所だ。存在は誰もが知っているが、詳しいことは語られないという謎の場所でもある。
どちらにせよ、誰もが避けたいところだろう。
十二歳になるまでに基礎課程を終えることができれば、白花として認められる。
そうなれば後は頑張り次第で出世できる。一花から五花まである格付けのうち、最上位の五花ともなればかなり自由な振るまいが許される。貴族の客を振ることすら可能になるのだ。
アルンは十歳にしてこの基礎課程を終えていた。
もともと優秀ではあったのだが、ミゼアス付きになってからさらに磨きがかかった。
しっかり栄養と休息を取れているので、授業にも身が入る。疑問点はミゼアスに聞けば教師よりもわかりやすく教えてくれる。
気がつけば、基礎課程を終えていた。それも、ミゼアスと並んでの最短記録だった。
「僕と同じく最短記録か。きみは才能もあるし、何より努力家だ。僕はきみのことを誇らしく思うよ」
アルンの憧れであり目標でもあるミゼアスはこう言って褒めてくれた。
将来への不安が消えたわけではないが、少なくとも今は庇護され認められている。アルンは満たされていた。
そのために同級生たちの不穏な噂を聞いたときも、どこか他人事のようだった。
「まだ起き上がれないらしいよ」
「ひどいよな……それって何で違反にならないの?」
「客が直接やったわけじゃないから、許されるらしいよ」
「でも、傷をつけているんだろう? 出血がひどかったって」
「不慮の事故、ってことになっているみたい」
「何だよ、それ。これで三人目だろう? どうしてそんなのが許されるんだよ……」
暗い顔で同級生たちがひそひそと話していた。
何事かと思ってアルンが尋ねてみると、見習いに手出しをするひどい客がいるという話だった。
見習いへの手出しは禁止だ。しかし、軽い戯れ程度であれば黙認される。
この客は直接自分では手を出さず、上役に見習いを犯させるというのだ。本来であればそれも禁止なのだが、道具を使わせるのだという。道具による戯れであれば、明確な禁止規定はない。
それだけならまだしも、どうやらその客は傷つくところを見たがっているのだという。無理やり秘所をこじ開けられ傷つき、苦しむ姿を見て楽しんでいるそうだ。
悪いことにその客は裕福な名門貴族の御曹司だそうで、金を詰まれて権力に訴えられれば逆らいようがない。
「おまえはいいよな。ミゼアス兄さんなら名門貴族だろうが断れるだろう」
「どっかの金持ちがミゼアス兄さんと同じ重さの黄金で身請けしたいって言ったときも、一昨日きやがれってはねつけたんだろう? どれだけ金を積まれても、気に入らなかったら口すら聞かないっていうもんな」
「狙われているのは金髪の子ばかりらしいよ。おまえも金髪だけれど、おまえはもし何かあってもミゼアス兄さんが守ってくれるんだろうなぁ。うらやましいよ」
口々に言われ、アルンは黙ったまま曖昧に頷いた。
同級生たちの言うとおり、ミゼアスがそんなひどいことを許すとは思えなかった。
このときは確かに他人事だったのだ。
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