不夜島の少年 小話集

師匠と呼ばせて６

　ミゼアスはアデルジェスと共に島を去っていった。
　あまりに唐突な出来事に、残された見習い三人はただ呆然とするだけだった。理解が追いつかない。
　ブラムが島に売られてきたときから、ミゼアスは五花で白花の第一位だった。ずっと変わらず君臨する姿に、何となくそれがこの先も続くのだと思っていたのだ。

　それが島を出ることになったと聞かされたのが昨日、そして出て行ったのが今日だ。あまりに早すぎる。
　新しく上役となったヴァレンはそうなることに気づいていたらしい。すぐに島を出て行くはずだから覚悟しておけと言われていた。本当にそのとおりになってしまったのだ。

　さらにアデルジェスはミゼアスの幼馴染だったともヴァレンから聞かされていた。
　何ということだろう。
　アデルジェスは幼い頃に奪われてしまった幼馴染を取り返すため、凄腕の色事師となって島に乗り込んできたというのか。
　あの穏やかで人が良さそうな姿からは想像もつかない。熱い想いを内に秘めたまま、平凡な態を装っていたのだろう。
　ブラムには到底及びもつかない奥深さだ。

　見習い三人は皆、ミゼアスのことを慕っていた。ミゼアスを奪われることは辛い。
　しかしアデルジェスの深く熱い想いに誰が敵うだろうか。二人を祝福することこそが務めであると、三人は涙を飲み込んで頷いた。
　息を弾ませてアデルジェスを追っていくミゼアスの姿がブラムの脳裏に蘇る。本当に嬉しそうで、幸せに満ち溢れていた。

　わずかな間ではあったが、彼のような素晴らしい師匠に巡り会えたことは素晴らしい幸運だったとブラムは思う。
　いつかブラムにもあれほどの想いを抱くときが来るのだろうか。
　今は想像もつかない。しかしいつか来るかもしれないそのときのためにも、アデルジェスの教えを守り、精進しようとブラムは心に刻んだ。