不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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借金を返そう1

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「ミゼアス兄さん、賭博場に行ってみたいです」

 現在十一歳、まもなく十二歳になるヴァレンは、自らの上役であるミゼアスにねだった。
 ミゼアスは五花にして白花の第一位である。自由気ままに島のどこだろうと行ける身分だ。

「……そういうところは、きみが一人前になってから行きなさい」

 しかしミゼアスはため息と共に拒絶した。

「ええー、見学だけでいいですからお願いしますよ。連れていってください」

 ヴァレンはミゼアスにしがみつき、尚もねだる。

「……どうしてそんなに行きたいんだい?」

「勉強のためです!」

 元気よくヴァレンは答える。

「勉強? 何を勉強するんだい?」

「その場の雰囲気とか、賭け方などを。今から計画を練っておきたいんです」

「……あまり聞きたくないけれど、その計画って何だい?」

「賭博で借金を返します!」

 高らかにヴァレンが宣言すると、ミゼアスは呆れたように宙を仰いだ。

「……それって、自滅する人間の台詞だよ」

 やれやれといった様子でミゼアスは言葉を吐き出す。

「大丈夫です! でも、おそらく機会は一度きりだと思うので、念入りに計画を練っておきたいんです。元金も貯めなきゃいけませんし、すぐには無理でしょうけれど。……あ、もし貸してくださったら、倍にして返します」

「……ますます、深みにはまっていく台詞だね……」

 額を押さえながらミゼアスは、さらに大きなため息を漏らした。

「……ヴァレン、きみはもうすぐ十二歳だ。そうなったらどうするのか、言ってみなさい」

「はい、十二歳になったら店に出て客を取り始めます」

「うん、そうだね。それから?」

「一年くらい頑張って働いて、そのお金を元金にして賭博で増やし、借金を返します」

「……だから……」

 本格的にミゼアスは俯いてしまった。呆れて物も言えないといった状態だ。

「だって、俺はまともに上に行くのは難しそうですし」

 ヴァレンは基礎課程をとうに終えている。上級課程もすでに終えているものが多く、かなり優秀なのだ。
 ただ、花月琴の才だけが致命的に欠けているのが難点で、そのために当代一の名手といわれるミゼアス付きになったという経緯がある。
 今では花月琴もそれなりに弾きこなすことができるが、やはり音に深みが出ない。

 この島において花月琴というのは大変重要だ。五花ともなれば、全員が花月琴の名手である。昇格のためにかなり重要視されるのだ。
 その花月琴の才が欠けているヴァレンでは、どうしても上には行けないだろう。うまくいって三花、おそらくは二花止まりだ。

「うん……確かに、難しいっていうのはあるだろうね。きみは頭の出来はいいのに、もったいない……売られる場所を間違えたよね」

 しみじみとミゼアスが呟く。

「まあ、仕方ないですよ。それが運命ってやつです」

 あっけらかんと答えるヴァレン。
 ヴァレンの家はもともと裕福な商家だったが、事業に失敗して売られてきた。だがそれもヴァレンの中ではすでに過去のことだ。
 これから客を取ることになるのも、それはそれで何とかなるだろうという思いしかない。身を売ることに別段嫌悪感などもない。
 ヴァレンはおおらかなこの国の中でも、最もおおらかな南方よりの町で生まれ育った。そのため、『頭がゆるい』と言われることが多々ある。

「……きみは、凄いよね……」

 自嘲気味に呟くミゼアス。
 ミゼアスは色々とお堅い西方よりの出身だとヴァレンは聞いている。そのためにヴァレンにはよくわからない葛藤があるらしい。

「だから、賭博場に連れて行ってください」

「……どうして、そこに戻るんだい……」

 ぐったりとしたミゼアスにヴァレンは何度もねだるが、結局お許しが出ることはなかった。
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