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16.幽閉

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 十八の誕生日を迎える数日前から、セレディローサは塔に幽閉されている。
 狼から守るため、セレディローサの安全を考えてとのことだったが、実際には他に被害を出さないためだろう。王城内で狼など暴れてしまっては、とんでもないことになる。被害を受けるのは一人でいいということだ。

「姫様……何か、ご入用のものはございますか?」

 いや、もう一人いた。忠実な侍女のイリナは、セレディローサの世話役は誰にも譲らないと、自ら塔についてきたのだ。

「いいえ、大丈夫よ。それよりも、もし狼がやってきたのなら、イリナは逃げて」

「冗談ではございません。イリナは姫様を最後までお守りし、もし力及ばぬときは共にまいります」

 この塔は王城から離れた場所にぽつりと建っている。もともとは、何代か前の王が愛妾を閉じ込めていたという塔らしい。
 古びてはいるものの、調度品や設備は豪奢な女性向けのものばかりだ。
 食事は毎日、不足のないものが運ばれてくる。望みの品を言えば、それも運ばれてくる。しかし、塔から出ることは許されない。
 内側からは開けられないように塔の外から鍵がかけられ、食事や入用の品は小窓から差し入れられるのだ。
 外の世界で何が起こっているのかも、人々がどうなっているのかも、わからなかった。

 次第に、何日が過ぎたのかもわからなくなってきた。
 死ぬのは恐ろしい。しかし、このまま希望のない日々を送り続けるのなら、いっそ早く終わらせてしまいたいとすら願う。
 呪いを解く方法を見つけると言ったデイネストの顔がときおり浮かんだが、もう二年以上も連絡がないのだ。西国の内乱がどうなったのかもわからない。もう希望の糸はセレディローサの手からすり抜けていったと思われた。
 精一杯、セレディローサを励まそうとするイリナだけが救いだった。
 王女としての取り繕った仮面をはずし、幼い子供のようにセレディローサはイリナに甘えた。

 一月が過ぎたのか、二月が過ぎたのか、あやふやになってきた頃、塔に使いがやってきた。

「セレディローサ王女殿下のご結婚がお決まりになりました。まもなく、夫となる殿方がこちらにいらっしゃいます。身支度を整えて、お待ちください」

 慇懃な使者はにこりともせずに訥々と述べる。

「え……お相手は、どなた?」

 自ら塔の入り口まで出向いたセレディローサは思わず問い返す。
 脳裏に浮かんだのは、かつて薬草園で求婚してきた少年の姿だ。まさか、とうとう迎えに来てくれたというのだろうか。
 セレディローサは高鳴る胸を隠すように、そっと両手で覆う。
 だがセレディローサの期待とは裏腹に、無表情だった使者の顔が一瞬、曇った。瞳には同情の色も宿ったが、すぐに自らの役目を思い出したように表情を打ち消して口を開く。

「……西国の王、黒狼王と呼ばれる方です」
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