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10.脆弱な翼

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 それからも二人の逢瀬は続き、一週間が経った。
 イリナが用意する美味しいものを食べながらデイネストと話をする日々は、セレディローサにかつてないほどの幸福を与えてくれていた。
 いっそこのまま、時が止まってしまえばよいと思う。
 しかし、時の流れを止める術などない。セレディローサは幸福の中にありながらも、自らに残された砂時計からさらさらと音をたてて砂が落ちていくのを感じていた。

 とうとう、この幸せが終わる日が来た。
 デイネストは隣国からの客人であり、帰らなくてはならないのだ。今日が最後の日だった。
 いつも明るく元気なデイネストも、今日はやや表情が暗い。二人で並んでベンチに座りながら、沈黙が続く。

「……セレディローサは王女なんだろう? それなのに、ずっとこんな暮らしをしているのか?」

 沈黙を破り、デイネストが口を開く。思いつめたような声だった。

「ええ、だって私は十八までしか生きられないのですもの。こうして好きなことをさせてもらえるだけ、幸せだわ」

 セレディローサは今まで誰にともなく尋ねられ、繰り返してきた答えと同じ言葉をなぞる。

「でも……もっと、違う場所を見てみたいとは思わないのか?」

「……思っても、仕方のないことですもの」

 うっすらと口元に諦念の笑みを浮かべ、セレディローサは呟く。

「じゃあ……ここから、俺と一緒に逃げ出さないか?」

「えっ?」

 セレディローサはぱちりと瞬きをして、そのまま止まったようにデイネストを見つめる。

「二人でどこか遠い場所に行って、何のしがらみもない平民として生きるんだ。こんな、取り繕った上辺だけの笑顔に囲まれた場所から、自由な場所に行くんだ」

 語りながら、デイネストの声が弾んでいく。まるで翼をはためかせるように両腕を大きく広げ、期待と希望に顔は上気している。
 セレディローサには、籠の中の鳥が大空に飛び立っていく様子が浮かぶようだった。
 甘く、魅力的な誘惑に心がきしむ。この手を取って、大空に飛び立つことができたら、どんなに幸せだろう。
 しかし、セレディローサは深く息を吐いて、わきあがった希望を打ち消した。

 ――大空に飛び立つには、あまりに脆弱な翼だ。
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