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08.外からの息吹
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「さあ、どうぞ」
木のスプーンを添えて皿を渡すと、デイネストは皿の上の果実に目を釘付けにしながら、両手で受け取る。
「ありがとう。いただきます」
待ちきれないような様子ではあったが、それでも礼儀を忘れないところに、育ちのよさがうかがえるようだった。
デイネストはスプーンに果実を乗せて口に運ぶ。
「……うん、甘酸っぱくて美味しい。初めて食べる味だけど、どことなく優しい感じだな」
満足そうに目を細めてデイネストは呟く。
「蜂蜜に漬けているからかしらね」
「ああ、この薄い色したのが蜂蜜か。俺の国だと、蜂蜜はもっと濃い色をしていて、香りや風味が強いような気がする」
「蜂蜜も国によって違うのね。蜂の種類が違うのかしら? それとも、花?」
「うーん……どうなんだろう。ただ、この国に咲いている花は、見たことがないものがいくつもあるよ」
「やっぱり、違うのね……」
セレディローサはこの国の中でも、狭い場所しか知らない。世の中はもっと広く、見たことがないようなものがたくさんあるのだろう。
しかし、セレディローサがそれらを知ることはないのだ。
胸に小さな疼きを覚えてそっと手を当てると、デイネストが心配そうな視線を向けていることに気付いた。はっとしてセレディローサは沈んだ思いを振り払う。
「……もしよかったら、あなたの国の話をしてくれないかしら? どんな花が咲いているとか、冬には雪が降るのか……何でもいいわ」
「ああ、もちろん。じゃあ、虫を食べる植物の話でもする?」
「えっ? そんな植物がいるの?」
セレディローサが思わず疑問の声をあげると、我が意を得たりとばかりにデイネストがにやりと笑った。
「いるんだよ。俺が前に……」
得意そうにデイネストは語り出した。
思いがけずやってきた外からの息吹は、セレディローサの想像もつかないような世界を匂わせる。
いっとき、すべての憂いも忘れ去ってセレディローサは耳を傾けた。
木のスプーンを添えて皿を渡すと、デイネストは皿の上の果実に目を釘付けにしながら、両手で受け取る。
「ありがとう。いただきます」
待ちきれないような様子ではあったが、それでも礼儀を忘れないところに、育ちのよさがうかがえるようだった。
デイネストはスプーンに果実を乗せて口に運ぶ。
「……うん、甘酸っぱくて美味しい。初めて食べる味だけど、どことなく優しい感じだな」
満足そうに目を細めてデイネストは呟く。
「蜂蜜に漬けているからかしらね」
「ああ、この薄い色したのが蜂蜜か。俺の国だと、蜂蜜はもっと濃い色をしていて、香りや風味が強いような気がする」
「蜂蜜も国によって違うのね。蜂の種類が違うのかしら? それとも、花?」
「うーん……どうなんだろう。ただ、この国に咲いている花は、見たことがないものがいくつもあるよ」
「やっぱり、違うのね……」
セレディローサはこの国の中でも、狭い場所しか知らない。世の中はもっと広く、見たことがないようなものがたくさんあるのだろう。
しかし、セレディローサがそれらを知ることはないのだ。
胸に小さな疼きを覚えてそっと手を当てると、デイネストが心配そうな視線を向けていることに気付いた。はっとしてセレディローサは沈んだ思いを振り払う。
「……もしよかったら、あなたの国の話をしてくれないかしら? どんな花が咲いているとか、冬には雪が降るのか……何でもいいわ」
「ああ、もちろん。じゃあ、虫を食べる植物の話でもする?」
「えっ? そんな植物がいるの?」
セレディローサが思わず疑問の声をあげると、我が意を得たりとばかりにデイネストがにやりと笑った。
「いるんだよ。俺が前に……」
得意そうにデイネストは語り出した。
思いがけずやってきた外からの息吹は、セレディローサの想像もつかないような世界を匂わせる。
いっとき、すべての憂いも忘れ去ってセレディローサは耳を傾けた。
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