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07.食いしん坊

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 薬草園の中に置かれたベンチに二人は座り、話をする。
 デイネストはやはり他国の人間で、この城を訪れる用事のあった親に連れてこられたそうだ。あまりに退屈なので城内を探検していたところ、この温室を見つけて入ってきたという。ところが台に上がろうとして滑って転げ落ち、怪我をしてしまったというわけだ。
 おそらく、どこかの貴族の子なのだろう。本人はわざと粗野に振る舞っているような仕草が見受けられたが、品のよさが滲み出ている。

「木の上に赤い実がなっているから、美味しそうだと思ったんだけどなあ」

 転げ落ちた原因を語りながら、デイネストは残念そうな顔をする。

「アラカの実ね。でも、あの実は美味しそうに見えるけれど、実際は苦いのよ。お腹を壊したときの薬になるわ」

「なんだ、まずいのか。残念だな」

「まあ、食いしん坊ね」

 思わず、軽やかな笑い声がセレディローサから漏れてしまう。食べることしか考えていないデイネストの言葉が、たまらなくおかしかった。
 笑われたデイネストはややふくれたような顔をして、人差し指で右の眉を掻いた。

「……そんなに笑うことないだろ」

 不機嫌そうな声が響き、セレディローサは笑いを引っ込める。

「ごめんなさい。ああ、そうだわ。カリミン果の蜂蜜漬けならあるけれど、食べる?」

「え? それ、初めて聞いた。どんなやつ?」

 一瞬で不満そうな表情は消え、代わりに期待がデイネストの瞳に浮かび上がってくる。

「この国ではわりとありふれた果物なのだけれど、もしかしたら他の国では珍しいのかもしれないわね。言葉よりも、実際に見て食べてみたほうがよくわかるでしょうし、持って来るわ。ちょっと待っていて」

「うん!」

 まるで褒美を待つ忠実な犬のように、デイネストはおとなしく座ったまま、セレディローサが立ち上がるのを見守った。
 またも笑いがこぼれそうになるが、声は立てずに口元だけを綻ばせると、セレディローサは薬草園の奥に向かう。

 カリミン果は咳や喉の症状に効果があるといわれていて、この薬草園でも栽培しているのだ。さらに薬効を引き出すため、蜂蜜漬けにしてある。また、薬効とは関係なく、ただ食べても美味しい。
 樽から、子供の手のひらに収まるほどの実をいくつか取り出して木の皿に載せると、セレディローサはデイネストの元に戻る。顔を輝かせるデイネストには、まるで勢いよくはためかせる尻尾が見えるようだった。
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