4 / 30
04.王妃
しおりを挟む
現王妃は淡い金色の髪に水色の瞳という、優しい色合いを持っていた。しかし顔立ちは整っているものの、目つきは厳しく、引き結ばれた唇は酷薄さを漂わせている。
セレディローサを目の前にし、王妃は鮮やかな紅の引かれた唇を笑みの形に歪めた。
「よく来てくれましたね、セレディローサ」
「お茶にお招きくださり、光栄にございます。私ごときを気にかけてくださるお義母様のお優しいお心、たいへんありがたく思いますわ」
「あら、『私ごとき』なんて……あなたはこの国の第一王女なのですよ。そう卑下するものではありませんよ」
口ではセレディローサをたしなめながら、王妃の唇には満足そうな笑みが形づくられる。
「そう言ってくださるお義母様のお優しさ、心にしみますわ。私は役立たずの王女ですもの」
「あなたは役立たずではないわ。十八で命尽きる呪いをかけられたのも、あなたのせいではないのですもの。わずか十八で生を終えねばならぬなど、本当にかわいそうに……たった十八で……」
王妃は感極まったように目元を絹の布で覆う。だがその口元から満足げな笑みが崩れることはなかった。
自らを卑下し、悲観的な言葉を穏やかに述べるセレディローサと、それをお優しい言葉でたしなめながら満足げな王妃。
定期的に行われる、儀式のようなものだった。
世継ぎの王子までもうけながら、尚も自らの優位を確認しなくては気がすまないほど、不安なのだろうか。セレディローサは王妃に対する憐憫すら覚えていた。
今さら何を言われようと、運命が覆ることはない。同情という名の嫌味など、気にもならない。
王女として役立たずの娘にできることは、『気高い王女』として死ぬことだけだ。
決められた枠内で好きに生き、品位を保ったまま呪いの成就を待つ。さすが王家の娘、そこいらの娘とは違うと人々に言わしめ、王家の価値を高めるのだ。
セレディローサの存在価値は、それだけだった。
セレディローサを目の前にし、王妃は鮮やかな紅の引かれた唇を笑みの形に歪めた。
「よく来てくれましたね、セレディローサ」
「お茶にお招きくださり、光栄にございます。私ごときを気にかけてくださるお義母様のお優しいお心、たいへんありがたく思いますわ」
「あら、『私ごとき』なんて……あなたはこの国の第一王女なのですよ。そう卑下するものではありませんよ」
口ではセレディローサをたしなめながら、王妃の唇には満足そうな笑みが形づくられる。
「そう言ってくださるお義母様のお優しさ、心にしみますわ。私は役立たずの王女ですもの」
「あなたは役立たずではないわ。十八で命尽きる呪いをかけられたのも、あなたのせいではないのですもの。わずか十八で生を終えねばならぬなど、本当にかわいそうに……たった十八で……」
王妃は感極まったように目元を絹の布で覆う。だがその口元から満足げな笑みが崩れることはなかった。
自らを卑下し、悲観的な言葉を穏やかに述べるセレディローサと、それをお優しい言葉でたしなめながら満足げな王妃。
定期的に行われる、儀式のようなものだった。
世継ぎの王子までもうけながら、尚も自らの優位を確認しなくては気がすまないほど、不安なのだろうか。セレディローサは王妃に対する憐憫すら覚えていた。
今さら何を言われようと、運命が覆ることはない。同情という名の嫌味など、気にもならない。
王女として役立たずの娘にできることは、『気高い王女』として死ぬことだけだ。
決められた枠内で好きに生き、品位を保ったまま呪いの成就を待つ。さすが王家の娘、そこいらの娘とは違うと人々に言わしめ、王家の価値を高めるのだ。
セレディローサの存在価値は、それだけだった。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる