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01.呪われた王女
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「王女様はとてもお美しく、聡明にお育ちになります。しかし十八のとき、狼の牙に貫かれて恐怖と苦痛のうちに、王女様は生を終えるのです」
しわがれた魔女の声が広間に響き渡る。
長い間子供に恵まれなかった国王夫妻に、このたびようやく待望の子が授かった。輝く黄金の髪と、空のように澄み渡った水色の瞳を持つ、愛らしい姫だった。
さぞや美しく成長し、多くの者たちを虜にしていくことだろう。
この国で最も幸福に包まれた姫には輝かしい未来が待っていることを、両親の国王夫妻のみならず、臣下の誰もが疑っていなかった。
その祝いの席で、事件は起こった。
姫に祝福を授けてもらうために、善良な魔女たちが祝いの席に招かれた。美しさ、聡明さなどの美徳が姫に授けられていく。
最後の一人が祝福を授けようとしたとき、招かれざる邪悪な魔女が現れた。
邪悪な魔女は姫に祝福ではなく呪いを与えると、高笑いと共に姿を消してしまったのだ。
残された者たちは呆然とし、なかなか事態を受け止められなかった。魔女が時すら奪っていったかのように、広間には沈黙が流れる。
しばしの後、王妃の悲痛な叫びで再び時は動き始めた。
「どうして! どうしてやっと授かったわたくしの子を!」
泣き叫ぶ王妃の声だけが広間に響き渡る。
誰もが、王妃がこのように取り乱す姿など見たことはなかった。いつも、たおやかでありながら凛とした、王国の白百合と呼ばれる王妃がすべてをかなぐり捨て、嘆く。
王妃の横で、国王が蒼白になりながら立ち尽くしていた。
しかし、ふと何かに気づいたように善良な魔女たちを見る。
「確か、まだ一人残っておったな。今の呪い、解くことはできぬか?」
やっと見つけた希望に取りすがるように、国王は声を絞り出す。
すると、善良な魔女たちの最後の一人が進み出る。まだ若い魔女だった。
「恐れながら……私には呪いを解くほどの力はございません。呪いをわずかばかり書き換えることが精一杯でございます」
穏やかな声で若い魔女は答える。
「……それでも構わぬ。どうか、わずかでも呪いをゆるめてほしい」
「わたくしからもお願いいたします……どうか、わずかでも……」
国王が苦渋の滲む顔で願い、王妃は必死の表情で懇願する。
自らの身に起こった出来事もわからず、姫は機嫌よくきゃっきゃっと声をあげて笑っていた。無邪気な姿に、涙を誘われる者も多い。
若い魔女が姫の元へと歩いていく。
その様子を、広間に集まった者たち全員が固唾を呑んで見守っていた。しんと静まり返った広間に、規則正しい足音だけが響く。
やがて足音が止まる。すべての人々の注目を浴びながら、若い魔女は姫に手をかざして静かに口を開いた。
「王女様は十八のとき、狼の牙に貫かれます。しかし恐怖と苦痛のうちにではなく、幸福と快楽のうちに王女様は生を終えるのです」
しわがれた魔女の声が広間に響き渡る。
長い間子供に恵まれなかった国王夫妻に、このたびようやく待望の子が授かった。輝く黄金の髪と、空のように澄み渡った水色の瞳を持つ、愛らしい姫だった。
さぞや美しく成長し、多くの者たちを虜にしていくことだろう。
この国で最も幸福に包まれた姫には輝かしい未来が待っていることを、両親の国王夫妻のみならず、臣下の誰もが疑っていなかった。
その祝いの席で、事件は起こった。
姫に祝福を授けてもらうために、善良な魔女たちが祝いの席に招かれた。美しさ、聡明さなどの美徳が姫に授けられていく。
最後の一人が祝福を授けようとしたとき、招かれざる邪悪な魔女が現れた。
邪悪な魔女は姫に祝福ではなく呪いを与えると、高笑いと共に姿を消してしまったのだ。
残された者たちは呆然とし、なかなか事態を受け止められなかった。魔女が時すら奪っていったかのように、広間には沈黙が流れる。
しばしの後、王妃の悲痛な叫びで再び時は動き始めた。
「どうして! どうしてやっと授かったわたくしの子を!」
泣き叫ぶ王妃の声だけが広間に響き渡る。
誰もが、王妃がこのように取り乱す姿など見たことはなかった。いつも、たおやかでありながら凛とした、王国の白百合と呼ばれる王妃がすべてをかなぐり捨て、嘆く。
王妃の横で、国王が蒼白になりながら立ち尽くしていた。
しかし、ふと何かに気づいたように善良な魔女たちを見る。
「確か、まだ一人残っておったな。今の呪い、解くことはできぬか?」
やっと見つけた希望に取りすがるように、国王は声を絞り出す。
すると、善良な魔女たちの最後の一人が進み出る。まだ若い魔女だった。
「恐れながら……私には呪いを解くほどの力はございません。呪いをわずかばかり書き換えることが精一杯でございます」
穏やかな声で若い魔女は答える。
「……それでも構わぬ。どうか、わずかでも呪いをゆるめてほしい」
「わたくしからもお願いいたします……どうか、わずかでも……」
国王が苦渋の滲む顔で願い、王妃は必死の表情で懇願する。
自らの身に起こった出来事もわからず、姫は機嫌よくきゃっきゃっと声をあげて笑っていた。無邪気な姿に、涙を誘われる者も多い。
若い魔女が姫の元へと歩いていく。
その様子を、広間に集まった者たち全員が固唾を呑んで見守っていた。しんと静まり返った広間に、規則正しい足音だけが響く。
やがて足音が止まる。すべての人々の注目を浴びながら、若い魔女は姫に手をかざして静かに口を開いた。
「王女様は十八のとき、狼の牙に貫かれます。しかし恐怖と苦痛のうちにではなく、幸福と快楽のうちに王女様は生を終えるのです」
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