僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

128.ウインシェルド侯爵の恩

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「ああ……そうでした。領主様は六年前、最初はミゼアス兄さんを治療するつもりはなかったそうですよ。でも、ウインシェルド侯爵が自らの命と引き換えにしてでも、と頼むので、心を動かされたそうです」

「ウインシェルド侯爵が……?」

 ふと思い出したようにヴァレンが口にした言葉は、ミゼアスにさらなる驚きをもたらした。
 ウインシェルド侯爵はいろいろとミゼアスを助けてくれたが、そのような話は初耳だ。

「治療をすれば、ミゼアス兄さんとジェスさんはいずれ惹き合うように出会い、そしてミゼアス兄さんは島を出ることになるだろう、と領主様にはそのときにわかっていたそうです。それを受け入れ、祝福することができるのかとウインシェルド侯爵に尋ねたところ、苦渋を滲ませながらも頷く態度にほだされたと言っていました」

「そうだったんだ……」

 ミゼアスは呆然と呟く。ウインシェルド侯爵は、自分の心をねじ伏せてまでミゼアスを助けてくれたのだ。今までそのようなことは知らず、のうのうと過ごしてきたことに罪悪感がわきあがってくる。

「ミゼアス兄さんが島を出た後、俺は何回かウインシェルド侯爵と会っていますけれど、ミゼアス兄さんが訪ねてきてくれるのを楽しみに待っていましたよ。まあ、島を出て一ヶ月や二ヶ月程度では落ち着かないだろうから、半年くらい待てばよいだろうか、なんて微笑みながら語っていました」

「うん……落ち着いたら、訪ねていくつもりではあったけれど……ウインシェルド侯爵がそんなにしてまで助けてくれたなんて……僕は……」

 どういう顔をして会えばよいのか、ミゼアスにはわからなかった。ウインシェルド侯爵の恩に対して、どう報いればよいのだろうか。

「ウインシェルド侯爵だって、ミゼアス兄さんが幸せになってくれることが第一ですよ。手紙を送ったり、たまに顔を見せたりすれば、それで十分だと思います」

 すると、ヴァレンがミゼアスの心を読んだかのように、穏やかに語りかけてくる。

「……そう、だろうか……」

「そうですよ。あまり難しいことは考えないで、ミゼアス兄さんはジェスさんと幸せになっていればいいんです。ミゼアス兄さんが変に悩んで苦しむのは、ウインシェルド侯爵だって望んでいないと思いますよ」

 ヴァレンが微笑みながら言い切ると、扉を叩く音が響いた。

「食事の準備ができましたよ。お話はまだかかりますか?」

「いえ、もう大丈夫です」

 扉の向こう側から聞こえてきたマリオンの声に対し、ヴァレンが答える。もう話は終わりということだろう。
 ミゼアスもこれ以上ぐだぐだと悩むことはやめた。もう変えられない過去を振り返るよりも、これから先のことを考えようと、頭を切り替える。

 恩人のウインシェルド侯爵、ミゼアスを助けてくれたアデルジェスやヴァレン、面倒を見てくれたマリオンとイーノス、そして快く島を送り出してくれた見習いの子たちなど、いろいろな思いに支えられてミゼアスは今、ここにいるのだ。
 思いを無駄にしないためにも、前を向いて歩いていくべきである。ミゼアスは軽く頭を振って、応接室を後にした。
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